第12話 先のことは考えない

月日が流れていく、何も変わらない。

既に知ってる未来、感動も少ない。


大好きな海、毎年夏になると必ず来てる。

もちろん彼女と。今付き合ってる彼女、

結構長く付き合ってくことになるんだよなー。


先が見えるから感動無いなーって月日が過ぎて、

会うことも少し面倒になってきて、


【涼!退屈なの?】


【あっ、ごめん。考え事してた、退屈じゃないよ】


【あっそ、ならいいけどね】


いずれ別れるにしても失礼か、彼女は現在進行系だからな。


なんのために今を過ごしているんだろう。

この先、何人か付き合うよな、俺。

退屈だなー、先が解るって。映画も結末解ってるから、苦痛でしかない。

かろうじて遊園地は楽しめる。ただし、謎解きタイプは駄目だ。


日々の興味が薄れていく、感動ってことも忘れていく。つまらない、何もかも。


【涼!別れよう、もう会わない】


あっ、これは早過ぎる。ここで別れることは。


【ごめん、考え事してて、本当にごめん】


【もう私といても楽しくないよね?ならいる意味ないよね?】


ターニングポイント…、もう何だこれ!!!段々苦しみに変わってきた。もう嫌になってきた。


【ごめん。解ったよ】


過去では8年付き合ってるが、こんなに早くに

別れてしまうとは。上手く出来ないなー、

女性の感覚って鋭い。本心を簡単に見抜かれる。


さて、どうするか。次に付き合う女性まで、

かなりの時間、彼女無しでいることになるぞ。


これ、ターニングポイント関係ないのかな?

何も起きない。もうこの先が解らない、

どうすれば?


あっ、これだ!ワクワクしてきた。そうだよ、

これだ!求めていたのは。先が解らないから楽しい、ドキドキする、不安になる、希望もある。


【お前、彼女と別れて明るくなったな】


友達がクリスマスパーティ誘ってくれた。これは彼女いない人限定だったな。記憶では俺が嘘ついて参加していたな。申し訳なかった。

今回は堂々と参加できる。


看護師って女性と結構話せたなー。とりあえず今度もって、もういいだろ!忘れろ。同じこと繰り返す必要ない。それにイベントは同じようにやってくる。


玲奈ともその時に出会えるはずだ、きっと。

映画に、ゲーセンに、食事に。出会った時のことは

全て覚えている。大丈夫!大丈夫!


【涼です、横いいですか?】

下手だなー、相変わらず。最初の声掛け苦手。

というよりも言葉にするのが苦手。話しに乗れば困ることはない。それだけは自信ある。

言い換えればそれだけだが…


【いいですよー、どうぞ】

まずはクリア。顔は?意外と可愛い!ラッキーって!

彼女は!!!知ってる、間違いない!!!


ユキなのか!!!!!たいぶ大人になったが、ユキだ!!!

【どうかしましたか?大丈夫ですか?】


言葉が出ない、時が止まった!

今世界で二人の時間しか流れていない。

落ち着いて、まずは落ち着いて。

【緊急してますね、年上ですよね。可愛い】


ユキの言葉、包まれていく。なのに俺は、

言葉が出ない、時は止まったままだ。

このことなのか?ユキが言っていたのは!


【ほんと大丈夫?お酒飲み過ぎているのかな?】


今度は震えてきた。情けないなー、動けー!

プハー、やっと動ける。想いを伝えられる!


【えーと、あの過去で、いろいろありがとうございました。あれから大丈夫…で…した?】


何言ってのか、自分でも解らない。


【やっぱ飲みすぎてるんですね、少し外に出ましょうか?寒いけど】


【はい】


何だよ。はいって。もっと気がきいたこと言えよなー、俺。情けない。

ユキに誘われてバルコニーへ移動。


【寒いですね。私から言ってたのに】

ユキは少し震えていた。

【これ、使ってください、よければ】

俺は躊躇しなかった。着ているフライトジャケットをかけてあげた。ユキっていい香りするなー。

【ありがとうございます。でも私だけ暖かくても、申し訳ないので返します】


【大丈夫です、寒くないので】

というよりもユキの肩に少し触れてから、もう、

震えて。寒さではない、この震えは。


ユキ、覚えている?忘れてしまったかな?

俺は君と会えることをずーと願っていたよ。

ユキが俺を思い出さなくても、もうターニングポイントがこの先にあっても無くても、

もう離れたくない。


想いが強すぎて、ユキの手を握ることも出来ない。

ユキのタートルネック、コート、スカート、

ヒール、バッグ全てが眩しい。


【覚えていませんか?俺のこと】

あー、もう、もっと気の利いたこと言えよ、俺!


暫く沈黙が続く。変なこと言って嫌われたかな~


【覚えていますよ、涼さん】


【えっ!どこから、どの時代!どの時間から!】


【全てです。やっと会えました、正しいルートで】

これが正しいルート。前に付き合っていた彼女8年はここへ来るために短縮されたのか!

そう考えるとよく出来てるなー、凄いな、本当に。

時間軸調整課ってこういうことなのか。


【ユキ、触れていいかな?手を握っても】

【もちろんいいですよ、涼さん】


手を握って、温もりを感じて、漆黒の空間のことも全て懐かしい。それで何て優しさに包まれるんだろう。嬉しくて、涙が出て、情けないが鼻水も。

寒さもあるだろう、最も情けない姿を見せている。

【寒いから入りましょうか?私ばかり暖かくても】

【もう少し。手を離したくない】

ユキは少し笑って、今度は両手で俺の手を包んでくれて、それもとても暖かくて安らぎに満ちている。

【私は離れないから大丈夫ですよ】


感情全てが込み上げて、空を見上げて、月がとても大きく見えて、涙が止まらない。どうしよう。

声が出ない、こんなにも大きな存在だったんだ。


過去に戻れて良かった、ユキに出会えて良かった。

この先に別れるって聞いてるけど、そんなこと今は考えない、ユキと時間軸調整課の関係も

もうどうでもいい。今、この瞬間、感情が、

全ての想いが、溢れ出す。


【ユキ、ごめん、怒らないで】


ユキを強く抱きしめた。俺の全ての想いを伝えるように。


【怒るわけないですよ、涙が溢れるだけです】


この時のこと、後でみんなに笑われた。写真も撮られたらしい。当時はスマホなんてないのでカメラで。しかも現像するタイプ。スマホ無くて本当に良かったー。


パーティ終わるまでバルコニーにいたらしい。

俺達はバルコニーパーティだった。


ユキのことは詳しく知らなくていいや。

俺が振られるまでの間、とにかく楽しもう。


振られるの嫌だなー。凄く傷つくよな、俺。













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