第3章 別れの旅行写真
3-1 高校最後の夏休み
「オーダー入りました。ヒレカツ・バーガー3つ!」
「ありがとうございます!」
高校三年生の夏休み。僕は勉強とアルバイトに明け暮れていた。僕と三上さんは、春の海原に写真を撮りに行ってから、随分と親しくなった。その後も時々写真を撮影しに、海や花公園に出掛けた。
時が経つのは早いものである。丸一年が過ぎ、僕と三上さんは高校三年生、香子姉さんは大学二年生の夏を迎えていた。
「ポテトあがりました」
「バンズも焼いて」
「はい」
「これから休憩にはいります」
「お疲れさまです」
高校三年生の夏休み。僕は平日の午前中を大学受験のための勉強にあて、午後二時から夕方七時までの間にアルバイトをしていた。
大学は英語と社会が得意科目だったので、文系の大学に行くか、それとも写真を学ぶために芸術系の大学へ行くか、迷いに迷っていた。
正直に言うと、写真で食べていくのは難しいと思われた。ブライダル・フォトグラファーや写真舘での出張撮影などの仕事はあるらしいのだが、狭き門らしい。
「手に職をつけなさい」
父さんは時々、そんなことを僕に話してくれた。父さんは市役所勤めで、技能的な仕事ではないらしく、「職人的な仕事」に憧れを抱いているらしいのだ。
夏休みの午前中は、高校で自主学習の時間があった。受験を前に、自主的に登校して、皆で勉強するのだ。僕の場合の試験科目は、通常科目の他に小論文がある大学が多いので小論文を毎日書いていた。国語の先生に、毎日八百字の小論文を提出することが僕の日課だった。僕は小論文があまり得意ではなかった。毎日何をどう書いたらよいのか、悩む日々が続いた。ただ時々、同じく小論文を提出している三上さんと話す機会に恵まれた。
「三上さんは、小論文が得意でいいよね。僕なんか、毎日四苦八苦しているよ」
そう僕がこぼすと、三上さんはクスクス笑った。
「私は、書くのが好きだから」
「香子姉さんの言葉を借りると、『好きこそ、ものの上手なれ』だね」
僕もつられて笑った。
「そうね」
「小川さんは、何処の大学を目指しているの?」
それが別れのはじまりだった。
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