2-2 履歴書と香子姉さん
履歴書を書いている途中で、そんな妄想を巡らせてしまったので、一息つくことにした。
三月下旬の夕方は少しだけ温もりがあり、長い冬の季節から抜け出そうとする空が、美しく暮れていた。東の空には、いま昇ったばかりの三日月があり、西の夕暮れと相対して空に架かっている。それは異世界のイラストに出てきそうな風景だった。
「何、書いてるの?」
一人キッチンで、ぼうっと窓の外を眺めていた僕に、香子姉さんが声を掛けてくれた。
「履歴書の清書をするところなんだ」
「どれどれ、お姉さんに見せてみなさい……。あ、誤字発見! 良かったね、今気づいて」
香子姉さんの言葉に半分感謝しながら、いつもの事ではあるが、イニシアティブを取られっぱなしの自分が、少し情けなかった。
「香子姉さん、どうして人は働かなくっちゃならないの?」
香子姉さんは、履歴書を僕に渡しながら、言葉も一緒に返した。
「それは食べるためよ。生きていかなくちゃならないでしょ」
「それはそうだけど……」
「働くなら、自分の好きなコトを仕事にすれば良いのよ」
香子姉さんの言葉は、強いけれども優しかった。僕は香子姉さんが指摘した誤字を直すと、清書をしようと席に座り直した。
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