ガンダーラ

梶マユカ

ガンダーラ

携帯の電源を切りカーテンを閉めて上映会のはじまり



今日だけはたったひとりの観客の役をつとめるそう決めたんだ



ふかふかの毛布にくるまるスタートのスイッチを押す勇気をください



どのくらい功徳をつめば行けるのかどこかにあると歌うその地に



もう二度と会うこともないふれることもないひとの名の流れるラスト



亡き人の名の刻まれた映像を集めることは供養になるか



似ているを受け入れるただそれだけにどれだけの時を費やしたのか



空蟬のようにはいかぬ脱ぎ捨てる鎧の重さに足のもつれて



すごいねじゃなくてよくやったねとただ言われたかったそれだけだった



生き別れも死に別れるのも慣れている別れないには慣れるものなの



昨日からつづく今日でもその先はつづかないんだ明日はいらない



あのときにうなずいただけで変わるようなもろい運命などいりません



ビー玉のななつころがる床に伏しひとりつぶやく出でよ神龍シェンロン



雨の日のポストのようだ傘もなくただひとり立つわたしはここだ



日曜の集荷表のみびりびりと破られる音の聞こえるようで



牛乳を火にかけている鍋のふちへせり上がる白をじっと見ている



換気扇をまわさずにいるむせかえるようなあまさを捨てられずにいる



ただ箸がころがるだけで笑えるなら箸置きなんて捨ててしまおう



笑顔なんてつくったっていい本物も偽物もないしあわせになれ



携帯の電源を入れカーテンを開けて続きはこの手でつくる

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ガンダーラ 梶マユカ @ankotsubaki

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