第3話 異世界SDGs

「わぁ、ここが異世界……」


私は、オリヴィアとともに外に出ていた。

想像していたような中世ヨーロッパの感じとはかなり違ったが、見慣れた日本的な街並みとはまるで違う。多くの家は灰色の漆喰のような素材で外壁が塗られており、ここら辺の家全体が一つの作品のようだ。


「写真撮っとこ」

「ん……?あ、待てっ!」


私が写真を撮るためにスマホを取り出すと同時に、オリヴィアがそれを静止した。

その少し後、私たちの目の前に楕円形の物体が出現した。これは……そう、ゲームで見るポータルみたいな。


何かまずいことしたかな。


「あー、手遅れだな。まあいい、私が対応しよう」


ポータルから出てきたのは、黒い服を身にまとった複数人の、人間……?多分人間だ。

服装は統一されているから、何かの制服なんだろう。


「申請のない電磁波を確認した。事情を聞かせてもらおう……オリヴィア様?」

「ああ。彼女は神の使いだ。異世界の機器を誤って起動した。私が後処理をする」

「承知しました。では、我々はこれで」


黒服の人たちはオリヴィアと少しだけ言葉を交わすとそのまま帰っていった。

申請のない電磁波?異世界の機器?


「ねえ、何の人たちだったの?」

「彼らは国防省の職員だ。国防省に設置してある、強力な電磁波を感知する機会が反応すると、その場所に彼らが派遣されてくる」

「……電波って概念、もうあるの?」

「ああ。数百年前には見つかっている」

「何か、異世界ってもっと進んでないものだと思ってたんだけど」


想像してたのはこう、中世ヨーロッパみたいな感じで、衛生観念とか適当で、身分制度がすごくて……みたいな感じなんだけど。


「ふむ。我々は君たちの世界について多少は調べているぞ?頼みごとをする神が危険な人格を持っていたら世界が滅ぶからな。その調査結果によると、我々の世界は君たちの者より若いらしいな」

「えぇ?何で若い世界が私の世界より文明が進んでるのよ」

「君たちの世界は魔法がないらしいじゃないか。科学の発展のための道具が一つ少なければ、その分発展も遅いのは自然なことだ」

「はー、なるほどね」

「電磁波、というのも魔力の揺らぎから発見に至ったのだぞ。雷の発生によって、魔法ではない原因で空間の魔力が揺らいだのだ」


オリヴィアは何かを懐かしむように語っている。

そうかぁ。観測するための手段が一個多いんだもんね。そりゃあ、発展も早いか。

そういえば、電波を飛ばしたら怒られたのはなんでだろう。


「それで、私はなんで怒られたの?」

「飛ばす必要のないものが飛んでいるのは不気味だろう?それに、強力だと人体に影響を及ぼしかねない」

「……化学が発展してるのに、電波は必要ないの?……あ」


そうじゃん。もう一個、あるんだったね。


「そうだ。魔法があるからな。とはいえ、最近はその流れも変わってきている。神の死によって訪れた『魔力の死』は、世界への魔力の供給を絶った。これは、魔法を今のまま使い続けると100年後には魔力が枯渇することを意味する。故に、今の魔力に頼った科学を変え、化石燃料や核燃料からエネルギーを生み出すことを唱える科学者もいる」


ふむ。なるほど、社会を持続させるために魔力を使わずに化石燃料とか……って、私たちの世界と逆なのね。どうせそれもいずれ枯渇したりして。


「……そういう運動ってこっちもあるんだ」

「ああ。この星にとって重要な課題だが、多くの利権が絡み今ではどこへ向かいたいのかもよく分からない。困った問題だよ」


オリヴィアの口調が困ったような感じに変わった。


何でだろう。異世界の住人のはずなのに、とてつもない親近感がわく。何でこんなに現代的な問題を抱えてるんだろう。異世界なのにあまり新鮮な感じがしない。


魔力が枯渇ねぇ。女神の言っていたことと同じだ。そうか、魔力の枯渇っていうのは、そういうところに影響が出てくるのか。私たちで言うところの電波が飛ばなくなる。そりゃ、世界中大騒ぎにもなるね。


「その問題があっても、まだ電磁波は飛ばしちゃダメなんだ」

「ああ。申請のない、と言っていただろう?書類で申請をすれば飛ばせるようになるし、見たところ人体に影響のあるような強さの電波は飛ばせるようには見えない。……申請をしておくか?私はそれなりの権限があるし、代わりにやっておくぞ」

「うーん、いいや。そこまで使いたいものじゃない」


そういう申請も出して通るぐらいにはあなたの地位って高いのね?まあ、神の使いの相手を下っ端がやるのも問題か。


「っていうか、そうだ。オリヴィアって有名人なの?様付けで呼ばれてたけど」

「まあ、そうなるのかな?長く生きているから、知られる機会も多いのだろうよ」

「……何歳?」

「む……君たちの世界では、時間を表す単位は何だ?」

「いっぱいあるよ?秒とか、日とか、年とか」

「そうか」


そう言いながら、また手元で魔法陣をいじっている。そうか、一年の長さが違ったら年齢を言われてもピンとこないよね。


「よし、これでいい。私は今で二千歳ほどになるかな。細かくは覚えていない。あまりに長すぎるからな」


年上だとは思ってたけど、そんなに!?そこまで長生きだと、大変そうだ。



***

この世界の住人はなんかすごいパワーで魔力が目に見えます。

ちなみに世界の時間の概念はこっちでも光基準です。

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