第3話 冒険者ギルド

 移動中は特に会話らしい会話も無くしばらく歩いて行く。

 やはり王城がある街……王都? は相当に広いな。


 1時間ほど歩くと大きな壁、城壁? 外壁? にたどり着き3人で壁の門をくぐる。


「この門から先が一般区画です。貴族街の東門から出てきたのでこの辺は東区ですね。冒険者ギルドはもう少し行ったところ、外門近くにありますよ」


 街の印象の違いに驚きキョロキョロしていた俺にサーシャさんが説明してくれた。


 王都は2つの大きな壁で区切られており、外側の壁を外壁、内側の壁を内壁と呼ぶらしい。


 内壁の内側は貴族や大商人などが住む区画で外側は一般人が住む区画と分けられているんだって。


 うん、予想通り。

 予想と違ったのは思ったよりも壁の中の面積が広い事だ。


 前方を歩く3人はサーシャさんが護衛の2人に色々話しかけているが護衛2人は会話より警戒を優先しているようであまり盛り上がってはいない。

 2人とも真剣だな。


 しばらく歩いて俺たちは大きな建物の前にたどり着いた。

 王城からほぼ真っ直ぐ、メインストリートなのだろうか? 大きな道沿いに冒険者ギルドは建っていた。


「ここが冒険者ギルドです! ささ、クリード様登録しちゃいましょう!」


 ハイテンションで俺の腕を掴んで中に入ろうとするサーシャさん。

 護衛騎士のアンナさんは先行して冒険者ギルド内に入って中を確認しているようだ。

 対してソフィアさんはサーシャさんから離れず身辺警護を行っている。

 自己紹介の時は明るい元気娘な感じがあったが仕事中はキリッとした顔をしてなんか雰囲気があるな……


「わかった、わかったから引っ張らないで!」


 グイグイ引っ張るサーシャさんを宥めて冒険者ギルド内へ足を踏み入れる。

 中はかなり広くて入って左手側は飲食店のようになっている。


 テンプレならここで仕事の終わった冒険者たちが飲んでいるのだろうが、まだ昼前のようで空席ばかりだった。


 右手には掲示板があり沢山の紙が貼り付けられている。

 おそらくあれが冒険者向けの依頼だろう。


 正面にはカウンターがありゆったりとしたスペースで受付嬢が数人待機している。


 うん、完全に想像通りの造りだな。


「やっぱりこの時間は空いてますね! さぁさぁクリード様サクッと登録しちゃいましょう!」



 サーシャさんはなんでこんなに楽しそうなんだろうか?

 トラックを見せる約束はしたけどそんなに楽しみなのだろうか?


「まぁここで突っ立ってても仕方ないよね、行こうか」


 カウンターの上を見ると【登録、相談】と書かれた場所があったのでそちらへ移動。


 さて、ここで登録したら俺の異世界生活が今度こそ始まる予感がするね。


【登録、相談】の窓口の前に歩いていくと、自分の方に向かっているのを察したのか受付嬢が立ち上がって出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご要件でしょうか?」



 ニコリと微笑む受付嬢。

 エクボが特徴的な落ち着いた雰囲気の20代半ばくらいの女性だ。


「冒険者登録希望です。こちらで構いませんか?」

「新規登録でしょうか? こちらで大丈夫ですよ。後ろの方々は紹介者でしょうか?」

「紹介者?」

「はい、既に冒険者になっている方の紹介があれば登録時の説明を省略することもできますので」


 なるほど、と思い後ろに居る3人に振り返って見るが、3人は揃って首を横に振った。

 ノリノリで連れて来といて登録してないのかよ……


「私たちは冒険者ではありません。なのでこちらのクリード様と一緒に登録したいと思います」


 サーシャさんが俺の横に並んでそんなことを言い始めた。


「かしこまりました。では皆様こちらの用紙に記入お願いします」


 受付嬢は4枚の登録用紙とペンを取り出して俺たちに手渡してくれた。


 用紙を見てみると、名前と出身地、例え大怪我を負ったり死亡したりしても自己責任であることを認める署名、たったこれだけだった。


 たったこれだけでも出身地をどう記入するか少し悩む。


「クリード様、この登録用紙ですが……」


 書こうと思ったところサーシャさんから小声で話しかけられた。


「名前ですか、クリード・レオではなくクリード、もしくはレオだけの方が良いかと思います。この世界で家名があるのは貴族かそれに準ずる者のみですので」


 なるほど、悪目立ちするってことか……わかったと示すために一つ頷く。


「それと出身地ですが、アルマン教国聖都としておいてください」

「なんで?」

「その方が私たちもフォローしやすいですし、この王都出身にしてしまうと知り合いが居ないことを怪しまれかねません」

「なるほど、わかったよ。ありがとう」


 的確なアドバイスに感謝して記入を始める。

 名前はサーシャさんたちが俺の事をクリードと呼ぶのでそのままクリードと書き込み出身地も言われた通りアルマン教国聖都とした。

 最後に署名してから受付嬢に登録用紙を手渡す。


「クリードさん、サーシャさん、アンナさん、ソフィアさんですね。申し遅れましたが本日担当させていただきますマリアと申します」


 よろしくお願いしますねと会釈されたのでこちらも返しておく。


「では皆様初めての登録とのことですので説明を始めさせていただきます」


 こちらの顔を見てきたので頷いて続きを促す。


「まずは禁止事項についてです。冒険者ギルドとは国家間の垣根を越えた超国家的組織ではありますが、登録された冒険者や職員には各国の法を遵守する義務が発生しますので、国の法には必ず従ってください。

 また、ギルド内での禁止事項としまして虚偽報告、魔物の擦り付け、ほかの冒険者からの成果の収奪などもあります。

 この規約を破った場合軽くてもランク降格、資格剥奪等の処置を取りますのでご了承ください。詳しい規約はこちらの冊子をお読みください」


 受付嬢は小さな冊子をそれぞれに手渡した。

 10ページもないような薄い冊子だ。後で目を通しておこう。


「続いてランク制度についてです。

 冒険者ランクは下からアイアン、カッパー、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリル、オリハルコンとなります。

 皆様は登録したてですのでアイアンからのスタートとなります。

 昇格に関しては同ランク依頼を連続20回、もしくはひとつ上のランクの依頼を連続10回達成すると昇格します。

 逆に、ランクに関わらず5回連続で失敗すると降格となりますのでご注意を」


 なら高ランク帯はランクを行ったり来たりするのかな?

 てかやっぱりミスリルとかオリハルコンとかあるんだね……


「しかしシルバーランク以上は昇格時に試験があります。その試験に合格しなければ昇格は認められませんのでまずはシルバーランクになることを目指してみてください」


 なるほど……そういうシステムなのか。


「今までの説明で分からないことはありますか?」

「いえ、大丈夫です。続けてください」


「かしこまりました。では依頼について説明します。

 依頼は常設と外注があります。

 常設依頼とは国や街、ギルドなどが常に出している依頼のことで基本的に街道周辺や街の近くの魔物の間引き、薬草類の採取となります。

 低ランクの間はこちらをこなすことをおすすめします。

 外注依頼ですが、こちらは個人や商店などから出される依頼のことで、こちらは特定魔物の討伐依頼や珍しい薬草採取依頼など多岐にわたります。

 高ランクに行くにつれて外注依頼が増えていきますね」


「常設依頼というのは受注してからでないといけないのですか?」

「いいえ、常設に貼られている依頼でしたら事後報告で問題ありません」


 なら外注を受けたついでにこなすこともできるってことか。


「次は魔物討伐の際の証明ですね。魔物によって決まった部位が証明になりますので、討伐した場合忘れずに証明部位の回収をしてくださいね」

「その証明部位は教えて貰えるんですか?」

「ギルド資料室で周辺に出現する魔物の討伐部位の一覧の載った資料があります。閲覧は無料です」


「次はパーティ制度についてです。

 数人でパーティを組む場合パーティリーダーのランクがそのパーティのランクとなります。ですのでパーティを組む場合は同じランク同士かランクの高い人をリーダーにしてパーティ登録をすることをオススメします。

 パーティの加入、脱退はこちらの窓口で行えますのでその際はこちらまでお越しください」


「パーティでの依頼達成の場合依頼の成否はどうカウントするんですか?」

「パーティで受けた依頼でもメンバー個人で受けた依頼でもパーティでの成否となります」

「なるほど、なら気をつけた方が良さそうですね」

 パーティ組むかどうかはわからない……と思うけど多分なんか聖女様御一行に組み込まれる気がするんだよね。サポートがどうの言ってたし。


「では最後にランク特典についてです。

 冒険者ギルドに登録した時点で各街や国境を超える際の通行税が半額になります。

 依頼での外出の場合戻る時は無料ですので必ず出る時に門兵さんに声をかけてくださいね。

 またゴールドランク以上となりますと通行税が無料となります。

 ギルド提携の宿やお店での割引もありますので是非ともゴールドランク冒険者になれるよう頑張ってください。

 説明は以上となります。なにか質問はありますか?」


「魔物の素材の買取なんかもギルドでやってもらえるのですか?」

「はい、承っております。素材のレートも掲示板に貼られていますのでご確認下さい」

「分かりました、ありがとうございます」

「ではこちらの冒険者証をご確認下さい」


 受付嬢は4つの黒っぽいドッグタグのようなものを取り出して俺たちに配ってくれた。

 いつの間に作ったの!?


「名前、出身地に間違いはありませんか?」


 カードの表記を確認するが申請通り。間違いは無い。


「大丈夫です」

「でしたら登録手続きは完了です。お疲れ様でした」

「ありがとうございました」


 こうして俺は冒険者として第一歩を踏み出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る