第5話:初戦闘&事件発生

 そのまま一時間ほど歩き、現在テール草原を見下ろせる丘にいた。


「帝国内屈指の大草原とあって、たくさんの魔物が生息しているな」


「そうですね。ちなみにここに生息している中で一番高ランクの魔物はDランクのブラックホースです」


「そうだな、そいつらは群れで生活しているし、今は子育て時期だから血の気が荒い」


「魔物の中では珍しく〈風〉魔法を使って遠距離攻撃をしてくるので気を付けてくださいね」


「ああ。まずはFランクのゴブリンから戦おうと思っている」



 魔物のランクはGから始まり、F・E・D・C・B・A・S・SS の順に高くなっていく。

Aランクは村災害レベルでSランクが都市災害レベル、SSランクは国災害レベルだ。


もしバルクッドの近くにSランクの魔物が出現したら、侯爵軍が総出で対処しなければならない。


 冒険者ランクも駆け出しは基本的にGランクから始まり、SSランクが最高だ。SSランクは大陸でも3人しかいないと言われている。

 冒険者ギルドは大陸中に存在しており、本部もいくつかある。カナン大帝国の帝都にも本部の一つがあり。それぞれの都市に支部がある。


「よし。そろそろ行くか」


「「「了解」」」



二十分ほど歩いていると、遠くの方にゴブリンの集団が見えた。ゴブリンは洞窟や森に集落を作って、人族や他の魔物のメスをさらって繁殖する。この世界でも嫌われ者である。


「俺一人で十分だから、手は出さないでくれ」


護衛の三人は頷き、俺の後ろに下がった。


「剣術も試したいから、何匹か残すか」



 その瞬間、光速思考を発動した。


 世界が止まったと錯覚するほど凝縮された時間の中で、一番効率のいい倒し方を考える。


 そして


「光の矢」


 あらかじめ指先に貯めておいた魔力を光に変換し、光の矢を一本放つ。

レーザービームより魔力が込められた殺戮の光は、まっすぐにゴブリンの集団に向かった。


 日光が当たっている場所は、俺の領域だ。目を瞑っていてもゴブリンの座標と魔力量、形や大きさが手に取ったようにわかる。


一匹の頭を貫いた後、矢は屈折し一匹、もう一匹と仕留めていく。


そのまま光の矢は十匹中、八匹の頭を貫き、霧散した。

残った二匹のゴブリンが驚いている束の間、剣を抜き身体強化を使って接近する。



そしてもう一度光速思考を起動する。一匹が怒り狂ったように棍棒を振り下げる。軌道的に

俺の頭を狙っている。


わざと当たる位置まで突っ込む。ゴブリンはニヤリとした。当たると思ったのだろう。


その刹那、身体強化を強めて一気に一歩飛び退いて躱す。


「そう、この角度だ」


剣を真っすぐゴブリンの首に差し込む。もう三歩前に踏み込むと、後ろのゴブリンの首も貫通し、二匹のゴブリンは絶命した。


「案外楽勝だったな」


ぶっちゃけゴブリンなら何万匹襲い掛かってきても、魔法で一瞬で片付けることができる。



「アルテ様、お見事です。凄まじい戦いぶりでしたな。最初の八匹は魔法で倒したのですか?」


「ああ、そうだ」


「やはりそうでしたか。気づいたら八匹倒れていた上に、最後の二匹を一突きで仕留められたので、何が起きたのか理解できずに混乱してしまいました」


光の矢は文字通り光のスピードで進む。飛ばしてから屈折させて方向を変えようと思っても

気づいたころには遥か彼方に飛んでいった後なので、まずは光速思考で座標を把握し、どの角度で屈折させるのかプログラムしてから放つのである。


これに対処できる生物は、世界中にいるのだろうか。いや、調子に乗ってはいけない。この大陸中には自分と同じ覚醒者が何百人といるのだから、油断してはいけない。


しかし


「攻撃の速度だけは誰にも負けない自信があるからな」



  そのあとゴブリンの魔石を取ってその場を後にした。



 バルクッドの屋敷に戻った後、風呂に入って夕食を食べたのだが、この日は珍しく家族全員揃っての晩餐だった。


「アル、ケビンから聞いたぞ。初めて魔物を倒したんだってな」


「あまり無茶しちゃだめよ?まだまだ子供なんだから。アルに何かあったら、お母さんショックで寝込んじゃうわ」


「でも相手はゴブリンだったし、苦戦はしなかったら安心して」


「僕はまだ魔物と戦う勇気はないなぁ。来年から学園に通うけど、そこでの実習が初戦闘になると思う」


「お兄様すごい!!!!」


と温かい家族に囲まれながら、料理を味わうのであった。


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そして翌朝、ケイルを呼んで、バルクッドの名物である高台へ行った。その目的は、昨日風呂に入りながら思いついたことを実験するためだ。

 それは光学レンズである。望遠鏡や顕微鏡に使われるこの技術は、まだこの世界には存在していない。


光学レンズは光の屈折率と分散率を利用して作られている。


 もし自分の目の結膜や角膜、虹彩を光学レンズに見立てて、屈折率や分散率を弄ったら、望遠鏡のように応用できるかもしれない。


一応、半径一キロ以内なら魔力操作が及ぶので、すべてが手に取るように把握できる。しかし、それ以上離れると難しいので、そういう時は俺自身が望遠鏡になればいいわけだ。



というわけで早速試したのだが、調節が非常に難しい。きちんと習得するためには、かなり時間がかかりそうだ。


そこから三時間ほど粘り、やっと習得できたのである。気づけばもう昼なので、ケイルが持ってきてくれたサンドイッチを食べた。


「このサンドイッチは本当に美味いな、ケイル」


「ええ、うちの料理長たちは優秀ですので」


そんな会話をしながら食事を済ませ、今度はここからバルクッドの周りを観察することにした。


そしてテール草原を眺めていた時、ブラックホースが群れで走っていた。


「あれがDランクのブラックホースか。Eランクのテールボアを追いかけている。見事な連携で追い詰めているな」


ブラックホースは雑食なので、基本的に自分より弱い魔物なら襲って食べてしまう。

 その後、テール草原の固有種であるテールボアを〈風〉魔法で仕留め、群れで食べ始めた。


「あれは人族でいうところのエアスラッシュだな」


「ブラックホースは自身の体に風を纏わせてスピードを上げるだけでなく、遠距離攻撃も得意ですからな。アル様も遭遇した場合はお気を付けください」


「ああ。肝に銘じておく」


しばらく眺めていると、ある事に気づいた。


「ん?一頭、小さい角が生えている仔馬がいるぞ」


「私には見えませんが、恐らく変異個体ですな。角が生えた黒馬の魔物ですと、上位種のバイコーンではないでしょうか」


「バイコーンって、Bランクの?」


「ええ、そうです」


「マジかよ、一応冒険者ギルドに報告しておくように手配してくれるか?」


「了解しました。御当主様にも報告しておきます」


「頼んだぞ」




すぐに屋敷に戻り、世界の魔物大全典という本を開く。魔物は、さっきのバイコーンのように、稀に変異個体が生まれる。また、変異個体は成長が限界に達すると進化する。


 普通の魔物も、素質のある個体なら進化するが、変異個体はその確率が非常に高い。Bランクのバイコーンというだけで危険なのだが、進化したら手が付けられなくなる。いざとなったら俺が出てもいい。


魔物はランクが上がるにつれて、知能が上がっていく。さっきのバイコーンが成長し群れを率い始めたら、確実にテール草原のバランスが乱れる。商人や旅人もBランクの闊歩する土地を移動するのはごめんだろう。


それにあの場所は駆け出し冒険者にとって重要な稼ぎ場なのだ。バイコーンが成長して大人になるまでにはどうにかしなければならない。


元の世界の野生動物と同様、こちらの世界の魔物も成長が早いのだ。


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 数日後、やはり問題が起きた。テール草原にAランクの魔物が現れたのである。


この魔物は天龍山脈の麓にある高ランク魔物の巣窟、通称「魔の森」から来た『ながれ』と推測されている。


 基本的に魔物は、生息している場所から大きく移動はしないのだが、縄張り争いで負けたり群れを追い出されたりすると一匹で放浪することがある。そういった個体は、の魔物と呼ばれる。


 現在、冒険者ギルドの派遣した高位の冒険者百人と侯爵家騎士団から選ばれた精鋭中の精鋭「黒龍騎士団」四百人が派遣された。ちなみにこの騎士団は総帥直下なので、親父も現場に向かっている。


聞いた話だと、城郭都市バルクッドを拠点にしているSランクパーティ「獅子王の爪」は仕事で帝都に行っている。そのかわりにAランクパーティが三つほど派遣されている。

 Aランクの魔物はAランクパーティがギリギリ倒せるくらいの強さなので、問題はなさそうだ。


それに何より親父が黒龍騎士団を率いて向かったのだ。心配はいらない。


 Aランクの魔物に数の作戦は無意味で犠牲者を増やすだけなので、少数精鋭で対応する作戦だ。


 だが


「よし、ケイル。俺たちも向かうぞ」


「御当主様に怒られますぞ?覚醒者であるアル様に何かあったら、帝国中の問題になります」


「俺がどうにかする」


「アル様らしいですね。ふふふ。止めても無駄なことはわかっているので、行くと決まったならすぐに向かいましょう」


「ああ」


家族が戦っているのに、何もしないなんて俺の誇りが許さない。


今回は急ぎなので、二人で馬に乗って向かった。








そしてテール草原に着くと、そこには「地獄」が広がっていた。

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