第5話 港町「フェルティメール」

「それじゃぁ、アンタらとはここでお別れだ」

 入門待ちをしている人の列に近ずき、馬車の上からそう告げられる。

 

「一緒に来ないのか?」

「商人には商人用の入場門があるんだよ」

 示された方向を見ると確かに幾つか列があり、商人が多く見える列だったり、武装した者が多く出入りする門が見られた。


「どうして分けてるんですか?」

「商人は密売人なんかも居て検査に時間が掛かりやすいからなぁ,, まっ、特化してるしてる分野で分けて調べる方が効率も時間もマシになるんだろうな」

「なるほど,,,それなら私達はここに並びますね」

 彼らと別れ、長い列を並ぶ。

 かなりの人数がいるが、簡易的なチェックで済むらしく一刻もしない内に入れるだろう。

 吟遊詩人や冒険者、怪しいフードを被っていたりとここは旅をする者が多く並ぶらしい。


 「さて、街に入ったらまずは宿を探して、何から手をつけるとするか」

 「色々見て回りたいですもんね。見た事ないものばかりなのでグ~」

「,,,食事も取らないとな」

「はいぃ,,,」

 かなり大きな腹の音を鳴らし、並んでいた他の者たちの視線を気にして顔を紅くする。

 食事は大事な事なので問題は無いが、この列を通過した後、宿を確保するまで余裕があるかが問題だ。あまりに空腹が続くと以前のような発作反応を起こしかねないだろう。

 

「とりあえず干し肉でも齧っていてくれ」

「私はお淑やかなお姫様だったのに、どうして食いしん坊の様になってしまったのでしょうか」

「以前からお淑やかと言う言葉は似合わなかったけどな」

 齧りながら睨み付けるリンから目を逸らし、周りの会話を盗み聞いてみる。


(今日はアマサライが豊作だったらしいぜ?)

(収穫祭まであと数日かぁ、早めに宿も取らないとね)

(最近は魔族の活動も減ってきてるらしいわねぇ

)

 色々な噂などが聞こえるが、収穫祭と言う言葉が気になる。

 祭りがあるのなら長期的に泊まれる宿を早く見つけないとそもそも泊まれる場所すら無くなってしまう。

 

「あ、次は私たちの番ですね」

 考えてる内に列が進みきったらしい。

 門兵はそれなりの経験が有りそうな兵士と冒険者が務めており、主な検査は兵士が行っている。

 冒険者は有事の際に動く為に派遣されたのだろう。


「この街に来た目的は?」

「旅をしていてな、観光と色々物資補給をする予定だ」

「観光でしたら収穫祭が数日後にあるので是非観て行って下さい。早めに宿を確保するのをオススメしますよ」

 何千と繰り返したであろう言葉を笑顔で言う兵士にお礼を言い、難なく入る事が出来た。

 城壁をくぐればそこらに屋台が並び、街は行き交う人々と馬車で溢れていた。


「こんなに人がたくさん……!屋台も沢山ありますよ!」

「はしゃぐのは宿を確保してからだ」

 初めて遊びに来た子供のように歩くリンを引っ張りながら、何とか空いている宿を見つけそこに暫く泊まることにした。

 

「よし、暫くはこの宿に居ることになるな」

「あの〜、、レイ?」

「どうした?」

「そろそろお腹が、お腹が限界で,,,」

 ふと振り向いてみると、2人きりになったからかせき止められていた唾液が流れ、慌ててふくリンの姿が映る。

 繰り返し血を渡してる内に嫌がっていたのが喜んで飲むようにはなったが、、、このままだと直に行かれかねないな。


「少しだけ待て、これを飲んだらすぐ食べに行くぞ」

「ありがとうございます,,,」

 コップにいつも通り血を注ぎ、彼女に渡す。

 待っていたと言わんばかりに一気に飲み干し、血の跡を付けながら満足な表情を浮かべる。


「俺の血を飲んで腹が膨れるのか?」

「空腹感はあるんですけど、最近は満足?する様になったんですよね。嗜好品みたいな物でしょうか?」

 少し面倒になったかもしれないとため息をつき、リンの口元に残る血痕を拭いとる。


「あ、でもやっぱりお腹は減ったままですね,,,」

「全く、、、早く食べに行くぞ」

 直ぐにお腹を鳴らしたリンは恥ずかしそうに笑い、やれやれと言ったように席を立ち上がるレイは予め目星を付けておいた飯屋に向かう。


新たな街に着いた2人、さらに多くの出会いを探しながら

少しづつ変わっていく変化に触れ

暫くは収穫祭まで楽しむ事にするようだ

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獣の姫と果てなき勇者 シェフィア @soruna

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