第3話 旅の導きに誘われて

「レイ、、、、まだ着かないのですか?」

「魔王城から移動してるんだぞ?馬ならまだしも歩きでどれだけ掛かるかも分からないんだ」

 儀式用の巫女服から旅用の軽装に着替えたリンはつまらなそうにため息をつく。

 あれから数週間、日課としてマグカップ一杯分の血を飲んで貰いながらやっと森を抜けた位しか進捗が無かった。

 着替えたのは今朝飲みかけのカップを零してしまい猟奇的な服装になってしまったからだ。


「魔王城に来た時は何で来たんですか!こう、、お馬さんとかに乗ってきたり!」

「徒歩だ、何ヶ月も掛けて少しづつ制圧するには馬でさえ邪魔になると思ったからな」

「えー,,,海を早く見たくて楽しみにしていますのに,,,」

 疲れた訳では無いんだな、見た目だけではなく身体能力にも呪いは影響しているのかもしれない。

 

 俺たちは今寂れた道沿いを歩いている、かつては国同士を繋ぐ交通路だったが、魔王による侵略で国の機能を失い、この道も役目を失ってしまった。

 だが、道沿いに行けば人がいる所に辿り着けるのも事実、ある程度方向さえ決まれば後は進むだけなのだ。

「まだ着かないのですか,,,?」

「何回聞いても距離は変わらないぞ」


 とはいえ俺自身も少し退屈していた事だ、近くに何かないか調べて見るとするか。

「少し離れていてくれ」

「何をするんですか?」

 リンが離れたのを確認して紙を手に持ち準備を始める。


『印せ、我らの軌跡 標せ、未知惹きの奇跡』

 その瞬間、紙の中心に火が灯り、蜘蛛の巣を張るように広がっていく。

 それは直ぐに消えるが何ヶ所かに大小の焦げ跡を遺した。


「な、何ですか今の!?」

「魔法の1つだ、どちらかと言うとお告げに近いがな」

 これは単純に【何かあるかも知れない】という直感を目に見える様に示してくれる魔法だ。

 神様に仕える神官が旅の神?とやらから授かった魔法らしい。


「私がいない間にこんなものも出来たんですね,,,,」

「旅を初めて結構直ぐに学べたぞ?どれくらい前だったか、、、思い出せないな」

「歳ですか?」

「それなら婆さんも同じくらい歳をとってそうだな」

 無言で脛を蹴られ肩を竦めつつ、紙を眺めていると細かい黒い焦げが沢山集まっている所を見つけた。

 経験上、生き物が多くいる時にこの様な焦げが出やすいと判断でき、それが旅団であったりなど人間との出会いが多いのも事実だった。


「よし、少し寄り道をしていくぞ」

「なにか見つけたんですか?」

「見つけたかもしれない、と言った方がいいな」

 当然、良いことが起こるかは分からないため注意を払いながら目的地へ向かう。

 少し歩くと遠目に何が見え始め、詳しく見ようと


「馬車と人が居ますね、何だか安心してしまいました」

,,,目が良くなったというレベルじゃないだろう。

 確かに辛うじて俺も見えるがリンの様な一般人には全く見えない程まだ遠いのだ。

 何はともあれ、危険性はないようで安心だ。

 俺たちは彼らに接触を試みる事にした。


「誰だお前達は!その女はどうした?」

「そう警戒しないでくれ、ただの旅の者だ。彼女の事も気になってるだろうが、呪いで訳ありなんだ。理解してくれ」

 こちらを見つけるなり手荒い歓迎だが、敵意が無いとわかると警戒はしつつも彼らの輪に入れて貰えた。

 初めに感じたのは全員が傷だらけであり、中には腕を固定しているなど大怪我をしている者も数人いた事だ。


「何があったんだ?」

「魔物の大量発生だ、盗賊の少ないここら辺を通ろうとしたら森から多くの魔物が飛び出してきてな。昨日また襲われて暫く休む事にしていたんだ」

 俺はリンと目を合わせ頷きあった、言わずとも分かる。


「良かったら、俺たちに手伝えることは無いか?」


これ、原因俺らのせいだ

申し訳なさを善意で隠しながら、新たな出会いに思いを馳せる。ただ1つの間違いを除いて。

(これ全部レイのせいですよね……?)

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