第2話 咲う花、綴る剣

 あれから十日ほど、色々と姫にも協力してもらい分かってきた事がある。

①魔力が含まれていれば基本何でも良い

②普通の食料でお腹は満たせても「満足感」は得にくい

③同じ物(俺の血)を何度も摂取すると効果が薄くなる

 紙に纏めたが、恐らくこれ以外にもまだまだ未知の特性などはあるだろう。一先ずは食料がキーワードになると判断し、あの日から血を飲んで貰いながら体を少しづつ休めていた。


 発作が起こる前に色々食べてもらって居るが焼いて調味料をかける程度しか出来ないため中々に辛い思いをさせてしまったと思う。

 当分の間は何とかなることが分かったが、ここの生物全てに慣れた後は大規模な移動をして新たな食料を探さないといけない。

  殆ど素人の研究にも等しいが、不確定要素にしても対策をするに越したことはなく、何か姫にあってからでは遅いのだ。


「,,,,課題が山積みだな」

「んぐっ、どうしたんですか?」

 肝心のお姫様はもぐもぐとお肉を頬張っている。

 こんな野性味溢れる食事では食欲も…めちゃくちゃ食ってるな、ガツガツと食ってるな。


「食べにくくないのか?」

「美味しいですし、ハグッ前より食べやすいんです!」

 恐らく生えてきた牙のお陰だろうが適応早過ぎないか?てかこんなに逞しい人だったのか。


「ずっと王城暮らしだったのでこういう料理に憧れていたんです!」

 そう言って凶悪な牙を見せ笑っている。

 結局、発作が治ったあとも牙が戻る事が無かったのだ。

 そこまで大きい訳では無いのだが、中々噛みちぎれない干し肉すらゼリーを噛むかの様に簡単に噛み裂ける程の切れ味があった事には驚いた。


「何か体に異変があったらすぐ言ってくれ、お前の体は危険だらけ心配が多すぎる」

「それ私と呪いどっちを心配してくれてるんですか?」

「両方だ」

 姫の事は別の意味でも心配だったが口には出さないでおく。


「そうだ、名前で呼んでもいいか?何時までも姫と呼ぶのも人里に訪れた時ややこしくなりそうだ」

「あ、それもそうですね、昔みたいにリンとお呼びください。それなら気も楽ですから」

「それなら俺はレイでいい。もう勇者としての役目は殆ど終わったようなもんだ。勇者という名もただの飾りになっていくだろう」

 まだ見習いの頃だった時のように名前を呼び合いつつ、食事を続け懐かしむが、肉を頬張る彼女を見て肩を竦めた。

 やっと満足したのかイノシシ一匹を半分程食べやっと手を止めたリンを見て、これからの食糧問題にもレイは頭を悩ませる。


「所で、その目は何か問題は無いのか?」

 左目を示し、彼女の外見とは明らかに不釣合な爬虫類の如き赤い目を覗く。


「痛みも何も無いですね。ただこっちの方が遥かに視力とかが良いみたいで,,,」

 不都合どころか快適になってると困ったように笑っていた。

 とはいえ警戒するに越したことはない。

 さて、ここから何処へ向かうかだが・・・大体検討はつけている。


「リン、この後は港町に向かおうと思うが,,,それでいいか?」

「箱入り娘だった私よりも旅の知識があるのはレイの方でしょう?貴方が選んだ旅先なら安心して行けるわ」

 随分と信頼されたもんだと笑い、テントを次元ポーチに仕舞う。

 港町ならば様々な食料が多くの土地から集まり、食料調達、発作対策の両方を補えるだろうと考えた。呪いについても何か情報を集めるのに都合が良いかもしれないからな。


「…レイ、ひとつ良いでしょうか」

「?、どうした」

「もし私が怪物さんになってしまったら、貴方が私を殺して下さい」

「,,,,わかった、昔と変わらず大変な事を簡単に頼んでくれるのは変わってないな」

「貴方は随分と変わりましたよ?前はとても笑顔が多かったのに,,,,,」

「色々あったんだ、笑ってる暇も無かったくらいにな」

「なら私が笑ってあげます、無愛想なその悪人相もつられて解れるかもしれませんよ?」

「余計なお世話だ」

 その後、ずっと隣でニコニコしているリンから目を逸らしながら、少しづつ森の中を2人は進んで行った。


 変わってしまったお互いを再び知りながら、昔の様に2人は再び手を取り合う。変わらない勇者と変わり続ける姫は港町を目指す為に森を抜けようと進み始めた。

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