県道7号の最期

六野みさお

第1話 最期

 壇上に一本の県道が立った。

「えー、それでは第425期県道会を始めます。司会はわたくし県道2号が務めさせていただきます。ではまず議長の県道1号氏から挨拶をいただきます」

 壇上に県道1号が出てきた。

「ただいまご紹介にあずかりました県道1号です。今回県道会を開催できたのは、県内の某高校が甲子園に出るということで、県民たちがテレビにかじりついており、県道の負担が一時的に大幅に軽減されているからです。というわけで試合が終わるまでにさっさと終わらせましょう。頼むから某高校は延長にしてくれ、この際勝ち負けはどうでもいい。それでは県道3号が今回の議題の説明をしてくれます」

 微妙に偉そうな1号に代わって3号が出てきた。

「では議題を説明します。今回の議題は7号の廃止についてです」

 県道7号が「ふぇっ!?」と奇声を上げたが、3号は無視した。

「そもそも7号は鉱山から石炭を採掘するために作られた県道です。しかし鉱山はかなり昔に閉鎖され、7号は現在ではほとんど使われていません。よって7号を廃止して取り壊すことを提案します——と、県道4号をはじめとする57本の有志連合が文書を提出してきています。それでは皆さんの意見をうかがいます」

 すぐに4号が挙手した。

「7号をこれ以上残しておくのは予算の無駄です。7号は建設された当初から山の生態系に悪い影響を与え続けてきました。今すぐ7号の県道資格を剝奪し、山を元の美しい状態に戻すべきです」

 19号も手を挙げた。

「7号はもはや用を為していないくせに7号を名乗っています。これは我が県の恥であります。であるからしてこちらの324号君に7号の名前を譲るべきです」

 後ろの方から324号が立ち上がった。

「皆さん初めまして、324号です。このたび私は新しく建設されました。そして私は4号氏や19号氏のご支援をいただくことができております。私は県の主要都市をこれまでよりも短い時間で結ぶ新しい幹線道路として、その役割を果たしていくつもりです」

「納得できん!」

 と、県道7号が大声を上げた。

「あの、7号さん、挙手してから発言していただけませんか」

 司会の2号が遠慮がちに注意した。

「一桁県道に挙手の許可なんてあってたまるか。お前たち、俺を差し置いて何か企んでいるとは思っていたが、まさか俺の命を奪おうとしているとは知らなかったぞ。俺は由緒ある県道なんだ。いくら人が通らなかろうが、俺は県の記憶として残っていくべきなんだよ!」

 だが、県道たちは熱弁を振るう7号を白けた様子で見ている。

「だいたい、もうすでに立派に6号が仕事をしている区間に、新しく県道を作るのはおかしいだろう。これは4号が勢力を拡大しようという陰謀だ!」

「はあ、まったく……」

 4号がため息をつきつつ再度手を挙げた。

「私に陰謀などという意図はあるはずがありません。そもそも、6号の区間は最近交通量が増えており、渋滞が問題になっていました。バイパスとして新しいルートを作ることで、県道一本あたりの負担を軽減することができるのです」

「まったくの正論だ!」

「やはり7号は陰謀論者だな!」

 ついに7号にはヤジが飛び始めた。

「なに、お前ら俺をなめてかかろうたってそうはいかないぞ。俺の後ろには国道55号様がついているのだからな。あの方は最近開発された新技術を使って、俺が再び活躍できるように、鉱山を再開させようとしてくれているんだ」

「ふう、これだから7号は……」

 今度は6号が発言を求めた。

「そもそも国道55号氏に大した力なんてないでしょう。こちらには国道会でも影響力の大きい国道23号氏などの支援を受けておりますからね。まあそれを抜きにしても、今石炭鉱山を再開させるなんてことはありえません。時代は脱炭素なのです。やれやれ、山の頂上に風力発電を設置すると言い出すのかと思えば、まだそんな時代遅れなことを言っていたとは……」

 6号は満足そうに着席した。県道たちは今やかなりの敵意をこめて7号を見ている。

「さて、そろそろかな……あれ、2号は?」

 1号が辺りを見回すと、司会の席に2号がいない。

「あ、2号は帰りました」

「34号、そうなの?」

「なんでも人通りが回復してきたらしいです。某高校は大差で負けているらしいので。というか1号殿、今日は午前の方が良かったのではありませんか? どうやらWBCの決勝とやらをやっていたらしくて、今よりもさらに人通りが少なかったのですが……」

「なんだと、しまった、時間がない! ではこれより採決を行う! 7号を廃止して、324号に7号を名乗らせることに賛成の者、挙手! 多数! では反対の者、挙手! 7号のみ! ではほぼ満場一致で7号は廃止に決定! というわけでさっさと7号の処刑を行う!」

 6号と34号が暴れる7号を押さえつけた。

「御免!」

 4号がどこからともなく取り出した刀で7号の首を斬ると、7号は跡形もなく消滅した。

「あ、324号、違った新7号、挨拶はいいから——時間がないんだ。それでは、解散!」

 すぐに会場からは誰もいなくなった。

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県道7号の最期 六野みさお @rikunomisao

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