2人きりの図書室

中3後期、2人は意図的に同じ図書委員になった。

図書当番や、本の整理、プリントの製作など、2人で話してても問題のない環境になった。


「谷川、当番行こ」

今日の昼休みは図書当番だ。

「うん、待って…」

えりは急いで、給食の片付けをする。

「遅い」

湊はニヤッとした。

「すいませんね」


「湊!昼休みサッカーしよ!」

同じクラスの友達が誘ってきた。

「今日、図書当番!」

「可哀想〜!じゃっ」


「人気者〜」

図書室までの廊下を歩きながら、他の人に聞こえないように、ボソボソ喋る。

「お前バカにしてない?」

「羨ましいよ」

「…疲れるけどね」

「大丈夫?病んでない?」

「病んでるかどうかもわからない」

「怖っ」

「大丈夫。春乃がいるから」

「シスコン」

えりにそう言われて、湊は笑った。


2人は図書室のカウンターに並んで座った。

図書室には誰もいなかった。

「図書委員ていいね。暇で」

「ね」

「えり、高校どこ行くの?」

「頑張って、西高に行きたい」

「え?!うそ?!一緒じゃん」

「声大きいよ…」

「ごめん」

「愛花とは違う高校うけるから、湊が一緒で良かった…」

「うん」

「湊はすぐ馴染めるから大丈夫でしょ」

えりは笑った。

「そうだね。でもさ…」

「腹黒いの隠さなきゃだもんね」

「そう」

「しっかり自覚してるよね」

えりは笑った。

「意外と冷静なもんで。…息詰まったらえりのとこ行くわ…」

「うん…」 


「…」

湊はえりの元気が無いことに気がついた。

「…。…なんか…息詰まってる…?」

湊は片ひじをついて聞いた。

「…ん」

「何に?」

「うん…」

「ん?」

「親、いなくなってから…。ずっとね…」

「そっか…」

湊は体勢を整えた。

「…孝司の事…」

「ん?」

「大好きだけど」

「うん」

「本当は、時間気にせずに遊んでみたい…」

えりの目には涙が溜まっていた。

「うん…」

「親のこと、人に気づかれたくなくて…。人と関わるの怖くなったり…」

「うん…」

「孝司と2人きりでいた時は…」

「うん…」

「息が…。…。」

「言って大丈夫。俺しか聞いてないよ…?」「息が…つまる時が、ある…」

えりは声を絞り出した。

「うん…」

「世界がすごく狭く感じて…」

「うん。わかるよ」

「最悪だ…。私…」

湊は、ポケットからティッシュを出してえりに渡した。

「ありがと…」


「えり、カウンターの下、潜ってな」

「ん…?」

「割りと広さあるし、その離れたとこ。人に見えないから。…って、あれ?これ酷いこと言ってる?」

「ううん…」

えりはフッと笑った。

「潜ってる」

湊の足から少し離れたところに座ろうとした。

「えり、これ」

湊はいらないコピー用紙を何枚か渡した。

「下に引いて」

「ハハッ。湊、やっぱりお兄ちゃんだね…」「…。バカにしてる?」

「してない。ありがとう…」

えりは膝を抱えてまた静かに泣いた。

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