第2話 「自己紹介」

「非通知…?なんだろう、これ。まあいいか」


上を向くと黒田総合商社と書かれた看板があります。…そう、ここは黒田総合商社の本社ビル前です。これから新しい出会いがあると思うと、期待と不安で胸がいっぱいです。不安な気持ちをかき消すために、深呼吸をして私はビルの中へと足を運びます。


ビルの中に入ると、殺風景な家具が置かれているだけで、あとは何もありません。さすが私の会社です!無駄なところはありません!そういえば、連絡板があります。そこをみると、交流会の開催場所は二階の社員食堂と書いてあります。場所もわかったところですし、エレベーターに乗って―――今休止中でした。階段で向かうことにしましょう。


二階への階段を丁寧に上がっていく毎に二階から賑やかな声がより一層鮮明に聞こえてくるようになります。…頑張らなくちゃ。


決意を固めるために、歯をかみ締めて、ドアを開けます。


そうすると華やかな光が私に差し込んできます。交流会の会場。そこはアットホームな雰囲気で溢れた、太陽のように優しいところのようでした。


目の前にホワイトボードがあり、そこには各々の異動先が書かれています。私の社員番号を辿っていくと営業部というところに辿りつきました。さっそく営業部のテーブルへ向かいましょう!


営業部のテーブルに向かうと二人で座っていて、その人たちは何か話しているようです。それに耳をすませると


「うはは、やっと女の子のいる部署にありつけた」


「…」


楽しそうに話していますね!私がテーブルに近づいてみるとお二人とも私に気づいたようで、もう一人の丸くて優しそうな人が


「きみが夏音ちゃんカナ!?隣にきて」


と手招きしています。せっかくですし、隣に座りましょう!


「みんな揃ったことだし、自己紹介しましょう」


細身の男の人がそう言いました。でも、営業部にもう一人いたような…


「あの、もう一人いるんじゃ」


「ああ!!夏音チャン、ブチョーのことね!ブチョーから『今忙しいから、先に三人で自己紹介済ませてきてよ』って伝言預かったのですヨ、ということで自己紹介しよう!」


「そうなんですね!」


なんてしっかりとしてる人なんだ!こんなしっかりした人が同僚だと安心するな!


「最初は夏音チャン、カナ!?、ていうか名前知ってるから自己紹介意味ないジャン!!、なんちゃって。じゃあ、名前年齢趣味出身大学の順で紹介ネ!!夏音チャンだけ下着の色を教えるとかどう?なんちゃって」


初対面でみんな緊張してるところを、ユーモアを入れてほぐすなんて、なんて有能な人なのでしょう!私の将来は安泰ですね!でも、教えるのはやっぱり恥ずかしいです…


「いや、下着の色なんて…恥ずかしいですよ」


「あはははは!!!恥ずかしがる夏音チャンいいネ!じゃあ気を取り直して、自己紹介行こうか!( -`ω-)b」


「えっと、私の名前は一下夏音です。年齢は22歳です。趣味は音楽を聴くことです。最近はYONIGEのグラドルにハマってます!出身大学はM治大学政治経済学部です!」


拍手が聞こえてきます。ふう、緊張した。次は優しい人のようですね!


「俺の名前は田中葛仁(たなか くずひと)!年齢は52歳。こう見えて結構歳いってるでしょ、趣味は特にないけど、強いて言うなら音楽を聴くことかな?グラドルも聞いてます、出身大学はN古屋大学文学部です!よろしくね!」


「へー!凄いですね、N古屋大学出身なんて!憧れちゃいます」


「だしょだしょ?今ならサイン貰えちゃうよ」


「あー…紙持ってきてないです!いつまで貰えますか!?」


「いつでもいいよ〜、夏音チャンにならね︎︎」


「やさしい!!」


などと会話を繰り広げてると細身の人がため息をついて咳払いをします。申し訳ないです…


「私の名前は秋田人生(あきだ じんせい)、28歳。趣味は親戚を可愛がること。出身大学はS玉大学経済学部。よろしくね、夏音くんと葛仁さん」


「よろしくお願いします!」


「よろしく人生!」


「そういえば、夏音くん。部長から伝言だ。部長と面会らしい。その次に葛仁さんと私。行ってきて。部長は7階の営業部長室にある。大変だろうけど、頑張ってね」


「…はい!」


☆☆☆


部長と面会…こわいな。

そう思いながら私は今部長室の前に立っています。どうやら中は立て込んでおり…おや、人が出てきました。勢いよく走り、鬼のような顔で屋上へと通じる扉をこじ開けようとします。開きませんよ…?開かないことに気づいた男の人はその場で崩れ落ち、泣き咽びました。どうしたのでしょうか。


「君が一下さんか」


優しそうな声が中から聞こえてきます。私の名前が呼ばれたらしいので、部長室に恐る恐る入っていきます。


そうすると部長は座っており優しそうな顔でこちらを見つめているようでした。(糸目なので、見つめているか正確にはわからないですけどね!)


「…その顔は」


「はい…?」


「アレはもう部外者…なんでもない。あっ、そうそう、こんなゴミのことを話している場合じゃなくて、僕の自己紹介と、ちょっとした話をしよう」


「はい」


さっきから震えが止まらない。


「僕の名前は、私上君下(しがみ きみした)。営業部の部長。これからよろしくね、一下さん」


笑顔を絶やすな。


笑顔を絶やしたら、また。


失敗をしては行けない。


失敗をしたら、また。


私はいない。


私がいるだけ。


「よよろしくおねかいしましゅ」


「うん、元気があってよろしい」


目の前の男は穏やかな顔をしていた。


なんでわたしが―――なんて優しい人なんだ!やっぱり人を疑うことは悪いことですね!深く反省します!


「それで、本題なんだけど」


「はいっ!」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る