第三章 35話 陸上自衛隊 琉洲奈島警備隊のフェンス5


  古舘はもう一度、桜の木のある民家の表札を確認し、琉洲奈島警備隊の幹部用Lineで報告した。


 「佐々木寿満子宅、剪定案件同意いただく。先方宅に立ち入らず、迷惑をかけずに剪定するなら構わないとのこと。早速、対処を始めたし。」


 寿満子は亡くなった祖母の名前「寿満子(すまこ)」をもらって命名された。父は婿養子にはいった。だから、琉洲奈島の祖母宅の表札は佐々木寿満子の名前だ。


 その表札は祖母の名前を表しているが、同時に孫娘も完全に同名だ。これまで不思議に思ったことはなかったが、自衛隊がポストに入れた手紙のあて名も「佐々木寿満子」だ。祖母宛なのだが、まるで自分あての手紙のように思えた。ポストには大量のその同名の名前あての郵便物が溜まっていた。


 

 ほとんどがDMだが宅急便の不在票が何枚か混ざっていた。不在票は3か月前から、毎月1回、月半ばに入っていた。


 宛名は「佐々木寿満子」宛、住所も間違っていない。祖母が亡くなったのは30年以上前。その祖母あてに宅急便が送られてきているのは気持ちが悪いことだった。


 不在票が入ってもだれも連絡しないため、荷物は差出人に返品されたのだろう。独居老人宅を狙っての詐欺商法を疑った。


 荷物の中身は書類だった。何かが送られてきたところで、すべて無視すればいい。祖母あての荷物であり、孫娘の寿満子 には関係のない荷物だ。


 


 両親が退職後に年金をもらいながらこの祖母の家で暮らすことを考えて、電気と水は継続契約していた。火災の危険も考え、ガスは契約していない。


 両親もたまに掃除に来ては、痛んでいた水回りの修繕や畳を交換していた。古い木造住宅だから今日のような大雪の日は隙間風が身に染みる。


 琉洲奈島は温暖な気候なので、こんな雪が降ることは稀だ。


 昔は障子だった引き戸にはガラスをいれ、雨戸もあった。

 今日はそれでも寒い。縁側を隔てた内側の引き戸は今も汚れた障子のままだ。

 


 その日は昼間でも気温が零度近くで冷え込んだままだった。


 

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