第二章  第23話 #9-5 中田与志男三曹 呼吸停止

 「おい!中田さん、おい!しっかりしろ」

 

 隆一郎は大声で呼び、体を揺するが返事がない。躊躇なく心臓マッサージを始めた。

 

 心肺停止まで至っていなければ、この時点で痛がり何らかの反応がある。しかし、中田に反応が無い。

 これはまずいと心の中で舌打ちした。だが、どうにかしなくてはならない。

 

 「おいっ、パメラ、そこにいるか。お~いっ、パメラ。」

 「はいっ!お呼びですか」

 ドアの向こうに駆け付けたパメラの声がする。

 

 「天寺さんと佐武さん呼んで来い。天寺さんは元習志野の空挺団だったよな。心臓マッサージくらい知ってるだろう。お二方もパメラも、みんなきてくれ!」

 

 「天寺警備隊長は空挺団にいたことがあるそうです。パメラ入ります。」

 ドアが開き、指示通りにマスクと手袋を着けた3人が入ってきた。

 

 「中田さん、大丈夫ですか?」

 返事がない。パメラの顔色が変わった。

 

 「なんでこんなことに……」

 パメラの呼吸が早い。


 極度の緊張と不安で過呼吸になりかけている。まずい、今パメラまで倒れたら。

 考えろ!ともかくパメラを落ち着かせるんだ。

 全神経を集中させて、隆一郎は対処方法を考えた。

 

 パメラは看護師ではない。意識を失っている人を見たことすらない。

 しかも、自分の直属の上司だ。ショックを受けて当然だ。

 「パメラ、落ち着け。まず深呼吸しろ」

 「は、はい。」

 そう答えていて、深呼吸の動作をしているのにまったく深呼吸ができない。うろたえて、普段できる行動すらまともにできなくなっている。

 

 「仕方ない。天寺さん、心臓マッサージの訓練はうけていますよね。」

 元空挺にいた天寺は基本的な心肺蘇生法を習熟しているはずだ。

 が、突然のことに頭がついていかない。

 

 「心マって胸骨圧迫のことだよな?」

 天寺は尋ねながら隆一郎に向かい合うよう、座って心臓マッサージの姿勢をとる。

 

 「いち・に・さんっ」

 心臓マッサージが隆一郎から天寺に代わった。交代の時に一瞬でも途切れてはいけない。そのための掛け声だ。

 

 天寺も流石に事態が飲み込めたようで真剣な表情で心臓マッサージをする。

 

 「遅いっ!」隆一郎が怒鳴った。

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