第二章 第13話#7-4 陸士長 九十見醒惟

 「さて、九十見、先週金曜日の二月十八日は当直さぼってどこへ行ってた?」

 

 天寺還郷琉洲奈警備隊長は隆一郎への説明を終えると、運転席の九十見に静かに重い声で尋ねた。

 

 後ろから見えていた運転席の九十見の背中がビシッと緊張した。

 

 「当直をさぼって無断で外出するのは脱柵だな。懲戒じゃないか」

 隆一郎が茶化す声で運転席に向けて声をかけた。

 

 「懲戒だな。だが、素直に全部白状するなら、考えてやってもいい」

 

 「天寺隊長はお優しい」

 隆一郎がそういうと、天寺は鼻先でフンと笑った。

 

 「申し訳ありません、懲戒は……」

 

 「許すか許さないかは供述次第だ。どこで何していた。言え。」

 しばらく沈黙があった。

 

 「海上自衛隊の吉村パメラ士長と中田与志男三曹と一緒でした」

 「中田与志男三等海曹だ。」

 天寺はその名前を隆一郎に告げた。

 「これから、診察する海上自衛隊員の患者ですね」

 隆一郎が天寺の方を向くと、天寺は頷いた。

 

 「そこで何をした。話せ。」

 「今郷町の入り江に行きました。ゴルフ場もある場所です。」

 「島の中央。金田城跡水路の入り口か」

 

 天寺はタブレットで地図を出した。入り江には小さな船舶を置く場所もある。不審船が目指しそうなポイントだ。

 

 「吉村士長がレーダーで見た不審船が間違いではないことを証明したくて。後輩に当直を押し付けて抜け出しました」

 「それで船はみつけたのか?」

 「ありませんでした。ただ、その周辺の浜辺で小さな新品のドラム缶をみつけました」

 

 ドラム缶は高さ1メートル、350リットル入るものが一般的だが、35センチ程度の小さなドラム缶もある。


 物騒な話だが、最大級のドラム缶であれば死体でもすっぽり入る。ドラム缶は密封性も高い。1988年に女子高生が路上で拉致され、監禁、暴行されて殺害された痛ましい事件があった。この時に女子高生をコンクリート詰めにして遺棄したドラム缶は直径60センチ、高さ90センチだった。身長165センチの被害者はしゃがみ込むような姿勢でドラム缶のコンクリートに閉じ込められていたという。

 

 ドラム缶は材質も様々だ。耐薬品性・耐油性・耐腐食性に考慮した様々な材質のものがある。中にどのような危険物が入っていたとしても、ふたを開けなければ、わからない。水に浮かべても、密閉性の高いものは中身を守って流れ着く。時間がたてば劣化するが、一定期間内の保管用とかんがえればかなり使い勝手のいい素材だ。

 

 「開けたのか?」

 「中田三曹がこんなところに新しいドラム缶あるのはおかしいと言って、中身を確認しました」

 

 天寺は隆一郎のほうを見た。

 隆一郎も頷いた。九十見は続けて説明した。

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