第二章 10話#7-1 陸士長 九十見醒惟

 琉洲奈島の九州本土からの距離は玄界灘と琉洲奈海峡東水道をはさんで約132km、これに対して朝鮮半島までは琉洲奈海峡西水道をはさんで約49.5km。朝鮮半島の方が九州より近い。「国境の島」として元寇の来襲などの外国からの侵略をギリギリのところで食い止めてきた島だ。


 明治三十八年(1905年)5月27日、日本帝国海軍の連合艦隊が無敵を誇るロシア海軍の第2・第3太平洋艦隊(バルチック艦隊)を撃破した。勝敗を分けたのは琉洲奈東方沖海域での戦いだった。横須賀市の三笠公園に当時の指揮官であった東郷平八郎氏の像とともに戦艦三笠が展示されている。バルチック艦隊を撃破した海戦の名前は日本海戦であり、この勝利の日を海軍記念日と呼ぶ。

 

 元海上自衛官であった隆一郎は琉洲奈島周辺海域に深い関心があった。

 

 あのバルチック艦隊を破った主力海戦の様子は島からも見えたという。国境の島、琉洲奈島は歴史の中で何度も狙われ、そのたびに先人が命がけで守り抜いた島であった。島を守るために明治時代の姫神山砲台から昭和の豊砲台など時々で攻撃拠点や監視所が設けられた。いたるところに旧大日本帝国軍の山林や戦時迷彩に隠された施設が点在する。複雑な地形で、たくさんの小島を持つ琉洲奈島を守り監視する難しさがその遺跡からヒシヒシと感じられる。

 

 海上自衛隊の琉洲奈警備所は陸上自衛隊の琉洲奈警備隊の駐屯地と同じ琉洲奈島南島でも市街地から離れた山林の中にある。ここは海上自衛隊のレーダー監視基地だ。大陸や国境の海域も含めて不穏な動きをする外国の船舶を明治時代から島は監視していた。現在の船舶の動向を監視しているのが琉洲奈警備所だ。

 

 この地に赴任した海上自衛隊員達は基地内の隊舎で生活する。日用品の買い物などは新厳原町まで下りてくるしかない不便な場所だ。

 

 ことの発端は、海上自衛隊レーダーの新人監視員の吉村パメラが監視中の短波帯レーダーに不審な物体船舶を探知したことであった。


 その小型の物体は通常の船舶の航路ではない岩礁の多い入り江を進んでいた。


 この部隊での経験が浅く今まで不審な動きをする物体を探知したことが無かった彼女は、レーダーの映像を見てギョッとした。ゲインを調整して何回も確認したがそれは確かにそこにいる。また、明らかに意思を持った動きをしていた。風の強い夜で多くの波頭がレーダーに反射し、画面は光点だらけで見づらかったが、明らかに意思をもって動く物体を探知してパメラの心拍数は跳ね上がった。

 

 すぐに部隊内の彼女の教育指導係も兼ねている上官に報告した。


 上官がレーダー画面を覗き込んだ時にはすでにその光点が消えしまい、その痕跡はなかった。

 

 「吉村、STC(海面反射抑制)の調整にまだ慣れてないだろ。船と思ったのはきっと波頭だ。みんな、最初は間違うんだ。もう少し慣れたら区別できるようになるさ。」

 彼女が波頭を船と間違ったとして処理された。

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