第6話 何かしらの好き

 私はあくびをする。中間テストは四日間の間で行われる。四日間の間、向月先生に会うことはなかった。


 ただ、中間テストが終わって安心したのか、私は、熱が出てしまい、学校を休んだ。

 ベットで横になる。お兄ちゃんは仕事だったし、風李さんもしばらく帰ってこないというのだから、頼れる人が誰もいない。

 自分で、ご飯を作って市販の薬を飲み、寝た。

 電話が鳴る。相手は担任の先生だった。三十代の男の先生。顔はまぁまぁで、性格がいいからと男女問わず生徒に人気。結婚している。奥さんは今、妊娠しているらしい。

「どう?体調回復してきた?」

「まだ、三十八度近くあるんで、あまり近づかない方がいいかと」

「あー、そうかー。今からテストとか届けにいこうと思っていたんだけど……郵便受けに入れとくな」

「すみません」

「家の人は?」

「仕事です」

「そ、っか……一人で?」

「はい」

淡々と答える。すると

「まぁ、無理せず安静にな」

優しい声だった。

「はい」

そう言って電話を切った。

私は時計を見る。お昼の十二時近い。もう少ししたら、学校に居た場合お昼休みだ。

 私はあまり体が強い方ではない。

 毎年、必ずと言っていいほど、風邪を引く。幼稚園児の時からだった。

 お母さんはとっくに居ない時で、お父さんも仕事だったからお兄ちゃんか父方のおばあちゃんが看病してくれた。

 だけど、おばあちゃんは中学の時に亡くなってしまったし……。

 そんなことを考えていると深い眠りについた。


 目を覚まして窓を見ると辺りはもう真っ暗だった。時計を見ると、二十時前だった。

 私は担任の先生の言葉を思い出す。

 郵便受けまで歩いて行くと、偶然にもお兄ちゃんに会った。

「お兄ちゃん……!」

「茉裕!体調どうだ?あ、これ茉裕宛に……」

そう言って渡されたのは『佐名茉裕様』と名前ペンで書かれた封筒だった。プリントやテストが入っているためか随分と分厚い。

「家に帰ろう」

「うん」

そう言って、家に帰った。お兄ちゃんに風李さんのことを聞いてみる。

「風李さんと、あの後連絡は?」

お兄ちゃんは気まづそうに

「茉裕にお礼を伝えておいてっていうのと、お母さんには軽くだったけど迷惑はかけるなと怒れれて、弟さんにはこっ酷く……」

「そう……ご愁傷様」

「気を付けるよ……今度は、加減を間違えないように」

お兄ちゃんは申し訳なさそうな顔をしている。

「うん」

「ご飯お粥でいい?」

「うん、自分の部屋にいるね」

そう言って私は自分の部屋に戻り、ベットに横になり封筒の中身を出す。中にはテストの点数と、テスト返しで返されたであろうプリントが入っていた。

「まぁまぁの点数」

一番低い点数は数一。一番高い点数は地理。ふと英語のプリントが目に入る。そこにはシンプルなスタンプ、『向月』と押されていた。英語は丁度中間あたりの点数だった。私はあの日の夜のことを思い出してしまう。風李さんに似た声で、私の名前を確認してきたことを

「バレたよね……」

私はバレても別に構わないけど、風李さんや向月先生が気まずいだろう。正直に言うと私も多少、気まずいが……。

 ドアのノックの音が聞こえる。私が返事をすると、お兄ちゃんが入ってきた。

「どうぞー」

少し冷ましてもらったお粥を私は食べる。

「それ、テスト」

そう言うと、お兄ちゃんはテストの結果を一枚一枚見て行く。

「まあ、今回ばかりは俺が迷惑かけたから……なんとも。俺より点数高いから大丈夫じゃない?」

「そっか」

「そうだよ。じゃ、俺はリビングでご飯食べてるから。夜中様子見に来る?」

お兄ちゃんは私の勉強机の椅子に座る。

「ううん」

「そう」

そのやり取りが終わると、椅子から立ち上がり

「おやすみ」

軽く柔らかい声で言ってきた。

「おやすみ」

私はベットに横になりながらそう言った


 次の日も学校を休み、学校に行ったのは週明けだった。向月先生から呼び出したりはしない。ただ毎日同じように授業を受けた。いつもの生活。バレてない……わけはない。絶対にバレていたのに。

 次に風李さんにあった時、私に謝ってきた。

「ごめん……本当に」

「……あの、弟さん私のこと何か言ってました?」

私が恐る恐る聞くと

「……ああ、俺の学校の生徒って」

「それだけ?教えてる生徒とか言ってた?」

「それは言ってないな」

私は少し俯き、やがて顔を上げた。

「私は大丈夫なんだけど……兄弟仲が大丈夫か……」

すると風李さんはニコニコと笑い

「それはいつも通りよー心配しないで〜」

私はこくりと頷いた。


 向月先生の授業の時、いつもはあまり見れない先生の顔をじっと見てみる。

 不自然なぐらい、目は合わなかった。

 そういうものなのか……避けられているのか……。

 しばらくして、目をぎゅっと瞑り下を向いた。私の耳には眠たげな声で英文の解説をする先生の声が聞こえる。眠くなってしまう人もいるみたいだが、私にはその声がとても居心地良く聞こえた。

 先生は風李さんとやっぱり似ている。先生に対して少しの苛立ち、興味があるという気持ちが芽生えているような気がする。でも自分では良く分かっていなかった。理解しきれなかったし、理解すべきことではないような気がした。なんでかは分からない。なんとなく……そう思った。

 移動教室で講師室を通る時は、チラリと講師室を見るようになった。バレていないか、バレているのか気になっていた。バレていないならそれはそれで都合が良いし、バレているのなら気持ちは晴れ、スッキリすると思う。多分。まず先生がどこまで知っているのか知りたかった。


 体育祭がもうすぐという時、井上さんは先生を体育祭が行われるグランドに来るように誘っていた。先生は

「考えとく」

棒読みであったが、井上さんをはじめとしたクラスメイトは喜んでいた。先生はみんなから愛されてはいるんだなと思った。私は嬉しい気持ちよりも先生のことを知らないくせにとイラッとする感情でぐじゃぐじゃになっていて、何故か動揺していた。動揺したまま受けた授業はあまり頭に内容は入らなかった。

 体育祭の目玉『クラス対抗リレー』は、体力測定で測った中で速かった上位三名がリレーメンバーになっていた。私は別にどこでも良かったので、中学の時には人気がなかった借り人競争に出たいと言った。でも、高校になるとそれは人気種目へと変わっていた。私はそれに気付き、やっぱり変えようと一度戻った席を立つと、

「借り人競争に出たいって言った人はじゃんけんしてー!多いからそれで勝った人が出るにするから」

私が

「やっぱり、こっちの誰も出たいって言ってない女子の綱引き出るよ」

決めるために書いた借り人競争のしたに書いた自分の名前を消そうとした時、井上さんが止めた。

「えー!なんでー!じゃんけんで決めるんだよ。それからでいいじゃん!」

「……はい」

私は面倒事に巻き込まれたくなかったので変えようとしただけだったのだが、折角の優しさを受け取るわけにはいかなかった。

結果、私が一番に勝ってしまった。次に井上さんも勝って、私と井上さんが出ることになった。

「よろしくねー」

井上さんは私に無邪気に笑ってそう言った後、仲良しの女の子に話しかけていた。

胸が痛かった。井上が好きなゲーム実況者のフーリは私と面識がある人。

 きっとファンの人達なら憧れるであろう一緒にケーキ食べたり、メールしあったりしてるのが私だから。

 何かしらの『好き』に当てはまる風李さんを好きでいるのが私で申し訳なく思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る