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栄一は わたしの祖父だ

でもわたしのほうが二倍以上生きているので 

畏敬と親しみを込めてエーイチと呼ぶことにする


エーイチは アッツ島で戦死した 二五歳だった

わたしは行ったことのないアッツ島を 調べに調べた


アッツ島へ行った兵士は 北海道と岩手の若い男性で

単身者もいたし すでに子や孫もいる兵士もいた

エーイチは 身ごもった妻を置いて出兵した その名を北海守備隊という

一九四二(昭和一七)年六月八日にアッツ島に上陸し

熱田と呼んで日本の領土とした


一九四三(昭和一八)年五月初旬

Y大佐は守備隊の長であり

北海守備隊司令部に次の緊急要請を行った


一、歩兵              一大隊半

二、野山砲             少くも一中隊(止むを得ざるも四一式山砲一中隊)

三、最も必要とする兵器弾薬

 一)兵器

   九二式機関銃          二

 二)弾薬信管

   九四式榴弾           五〇〇〇

   重擲弾筒            一〇〇〇〇

   九二式歩兵榴弾         二〇〇〇

   手榴弾             一〇〇〇〇

   三七耗速射砲榴弾        一〇〇〇

   同    微甲弾        一〇〇〇

   高射砲弾薬           五〇〇〇

   三八式普通実包         一〇〇〇〇〇

   九九式普通実包         五〇〇〇〇〇

 三)糧食

   圧縮口糧            一〇日分

   調味品(味噌、醤油、砂糖、食塩)二〇日分

   漬物              二〇日分

   主食              一〇日分

   副食物             一〇日分

 四)木炭              一〇〇俵

   炊事具             五組

   携帯天幕(人型)        一〇組

五月一七日見込人員二五〇〇人分とす

陸揚地点は熱田湾東側駒ヶ岳北端海岸と予定しあり


Y大佐の、まさに血を吐くような緊急要請を

上層部はその一つとして実行しなかったばかりか

「アッツ島守備隊山崎保代大佐は、一兵の増援も物資補給の要請も全く行わず」

「死を目前に敵の装備など詳細に報告した帝国軍人の鑑」

という「美談」に仕立て上げた

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