第5話 ファースト・ターゲット

「攻撃魔法については大体分かった。防御魔法もアニメみたいなシールドによる反射やフィックスによる拘束だと考えれば良いのかな?」

『はい、マスター、その通りです。ですが、アニメのレベッカよりも強力な防御魔法が使えるはずです』

「それって、魔力量の問題なの?」

『その通りです、さすがマスター、良く分かっていらっしゃいますね』

「ということは、レベッカは膨大な魔力量を知られないために隠ぺいの魔法を使ってるんだね?」

『おっしゃる通りです』


 アニメの主人公の魔法少女は、当初膨大な魔法を暴走させたり、垂れ流しになっていることで敵に居場所を察知されていた。

 修業の結果、アニメの終盤では有り余る魔力をコントロールする術を身に着けるのだが、レベッカは最初から魔力を制御しているようだ。


 それでいて、アニメの魔法少女よりも強力な魔法を使えるというならば、隠ぺい魔法を会得していると考えるべきだろう。


「そうか、さすがはレベッカだな」

『お褒めいただき、ありがとうございます』

「ところで、レベッカ。僕もレベッカの変化に浮かれてしまって、本来なら最初に確認すべきだったんだけど……自己修復機能は、ちゃんと備わっているの?」

『マスター……ご心配いただき申し訳ございません。大丈夫です、損傷率百パーセントからでも復帰できるよう、亜空間にデータと素体のバックアップを用意してあります』

「それって、もし目の前のレベッカが消えてしまっても、ちゃんとレベッカは残っているってこと?」

『その通りです。私は、マスターが生涯を終える時まで、ずっとお仕えさせていただきます』

「わかった、でも僕は、レベッカが傷つくところなんて見たくないからね。それだけは忘れないでよ」

『はい……はい、はい、マスター』


 アームレストをそっと撫でると、レベッカの喜びが伝わってくるような気がした。


「ねぇ、レベッカ……」

『はい、マスター』

「フォームチェンジが出来るって事は、アーマーモードとか、ストライカーモードとか、ランサーモードにも変われるの?」

『はい、マスター、お望みとあらば変化は可能です』


 僕が口にしたモードは、いわゆる鎧と武器に変化するモードだが、ハンディキャップを抱えた僕では使いこなせないだろう。


「ねぇ、レベッカ……治癒魔法や回復魔法は使えないの?」

『申し訳ございません、マスター。今はまだ使えません……』

「今は、まだ……?」

『はい、今はまだです』

「そうか……じゃあ探しに行かないとだね」

『はい、マスター』


 光が見えた気がした。

 日本の現代医学では、どうにもならないと諦めるしかなかったが、治癒魔法や再生魔法と呼ばれる魔法が存在するならば、僕の脊髄は治るかもしれない。


 もう一度、自分の足で立てるかもしれない。


『でも、マスターがご自分の足で歩けるようになったら、私は必要無くなってしまうのでは……』

「何言ってるんだよ、レベッカ。僕は自分の足で新幹線よりも速く走れないからね」

『マスター……』

「それに、たとえレベッカが普通の電動車椅子のままだったとしても、僕は君を手放したりしないよ」

『マスター……はい、はい、はい、ずっとお側におります』


 とりあえず、最初の目標として治癒魔法か回復魔法をレベッカに習得させる。

 強力な治癒魔法があれば、戦いの場でも役に立つはずだ。


 夕食の時にでも訊ねてみようかと思ったが、やっぱり待ちきれないのでベルを鳴らしてナディーヌさんを呼び出した。


「お呼びでございますか?」

「ちょっと教えてもらいたいんだけど、この世界には治癒魔法とか回復魔法、それに清浄化の魔法なんてものは存在しているかな?」

「はい、ございます。それらの魔法は光属性に分類される魔法です」

「希少性の高い魔法だったりする?」

「そうですね……一般的な属性魔法に比べて扱える人の割合は少ないですが、極端に珍しい属性ではありません。ただ、治癒魔法や回復魔法は経験によって効果が大きく変わると言われてます」


 光属性の治癒魔法は聖女様しか使えません……なんて言われたらどうしようと思っていたので、これは朗報と言って良いだろう。


「なるほど、扱える人はそれなりにいるけれど、高度な治療を行うには熟練を要する……って感じかな」

「おっしゃる通りです」

「出来れば、それらの魔法を見てみたいのだけど、手配してもらえるかな?」

「かしこまりました。明日でもかまいませんか?」

「ええ、明日の方がこっちも助かるよ」

「では、そのように手配させていただきます。他にご用はございませんか?」

「喉が渇いたので、お茶をもらえるかな?」

「かしこまりました、すぐにお持ちいたします」


 ナディーヌさんは、お手本のようなお辞儀をすると、足音一つ立てずに退室していった。

 ここは王家の支城の一つという話だったから、選りすぐったメイドさんが揃っているのだろう。


「レベッカ、僕はミランディアに協力しようと思う」

『それでは、戦争に加担するのですか?』

「それは状況次第かな。ただ、治癒魔法を手に入れるには、王家の協力があった方が良い気がするんだ」

『分かりました、私はマスターの決定に従います』

「でもね、一応協力すると言うつもりだけど、理不尽な戦いならば止めたいとも思っている。誰かを虐げる事にレベッカを使いたくないからね」

『マスター……ありがとうございます』

「僕らの目標は、治癒魔法を手に入れて僕の体を元に戻すこと。そして、この世界を平和にしたら、二人で冒険の旅に出よう!」

『はい、マスター! どこまでもお供いたします!』


 突然レベッカが喋り始めた時は驚いたけど、この異世界召喚は看板に潰されそうだった女性を救ったご褒美なんだと思う。

 だったら僕は、この第二の人生ともいえる冒険を全力で楽しんでやるつもりだ。


「レベッカ、これからもよろしく頼むね」

『はい、マスター!』

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魔導車椅子レベッカ 篠浦 知螺 @shinoura-chira

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