最終話 先生へ


 先生、お元気ですか?

 卒業してまだ一ヶ月ですが、私、先生の教えを今も思い出すんです。


 「誰かに助けてもらったら、きちんとありがとうって、感謝を伝えなさい」って。

 赤月先輩は、悪の組織に捕まった私を、助けてくれました。

 どうして私にずっとついてくるのか聞いたら、赤月先輩は、私がまた悪の組織に捕まらないように、守ってくれていたんですって。

 それなのに、私、そんなことも知らずに赤月先輩から逃げてしまって……


 だからちゃんと、赤月先輩には逃げたことも謝って、助けてくれたことに感謝しました。


「ありがとうございました。でも、どうして私なんかを助けてくれるんですか?」

「ヒーローが助けないで、誰が助けるっていうんだ」


 赤月先輩は、怖くて泣いていた私をぎゅっと抱きしめて、頭を撫でてくれました。

 本当に、赤月先輩ってヒーローなんだなって、思いました。


 それで、こんなイケメンなヒーローが実在するんだって、私、嬉しくてついつい言ってしまったんです。


「お礼に、なんでもします」


 赤月先輩は最初は驚いたような顔をしていましたが、にっこり笑ってこう言いました。


「じゃぁ、俺のそばから離れないって、約束してくれ」

「はい!」


 そんなことでいいなら、お安い御用です。

 いつまでだって、赤月先輩と一緒にいます。

 もう二度と、離れたりしません。


「……それと————」

「それと?」


 赤月先輩は、私に言いました。


「桃香からするこの甘いにおい、いったいどこからしてるのか確かめさせてくれないか?」

「匂い……?」


 何を言っているか、さっぱりわかりませんでした。


「この甘い匂い、不思議と力が湧いてくるんだ……」


 でも、赤月先輩は犬みたいに頭、耳、首筋とクンクン私の匂いを嗅いでいきます。


「えっ……ちょっと……待ってください!」


 くすぐったいし、恥ずかしいしで、私はパニックになりました。

 服も脱がされそうになって……


 そしたら、そこで多分騒ぎを聞きつけた誰かが通報していたみたいで、お巡りさんがやってきました。


「こら!! こんなところに女の子連れ込んで何してる!!」

「嫌がっているじゃないか!! すぐにその子を離しなさい!!」

「まったく、君ね、いくらイケメンでも、嫌がる女の子に無理やりだなんて、いけないよ!! まったく!!」


 赤月先輩は、変質者だと勘違いされて警察に連れて行かれました。


 ……あの、先生。

 ヒーローが警察に連れて行かれた場合、どうやって誤解を解いたらいいんでしょうか?


 今度会った時、教えてください。





(終わり)



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赤月先輩は、ただの残念なイケメンじゃない 星来 香文子 @eru_melon

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