二十二話

「分かったのは、その北大の子の名前だけだった」

その後も、彼は行動した。予備校のチューターさんに相談してみたり、北大の子の友達を探してみたり。周りの友達にも色々と協力してもらったそうだ。


 一連の行動の中で、北大の子がどこの高校出身で、どの大学に進学したか、が次第に明らかになった。勿論、その子が北海道大学に進んだのも、この時に知ったことになる。

 数々の紆余曲折を経て、彼は、ついに北大の女の子と連絡を取ることに成功する。



「マジで嬉しかった。十数年生きて来て、これほどまでに心が満たされた瞬間はなかった」

そして、夏休みにその子と会う約束も取り付けた。八月の後半、一週間だけこちらに遊びに来ることになっていたらしい。

 その子の両親は、元々秋田県の出身で、大学進学と同時に関東から東北へと引っ越していた。だからその北大の子は、札幌で一人暮らしをしていたことになる。



 そして、彼と北大の子はついに出会いを果たす。

「夏休みに会った時、俺、面喰っちゃった。え? こんなに綺麗な子だったっけ、って。

 でも色々訊いてみるとさ、確かにその子なんだよ。向こうは俺のこと覚えてなかった。ていうか、ほぼ知らなかったんだけど・・・まあ、それはどうでもいいや。

 とにかく、綺麗な子だった。いや、綺麗になってた。京子とはまた違うタイプの美人さん。そして、すごく良い子だった。包容力があるっていう、俺の予想も当たってたし。話してて楽しかった。


 でも、俺はこの時、自分の気持ちに嘘をついたんだ。自分はその子のことを好きじゃない、って。こんなに綺麗で、性格も良い子がこんな自分と釣り合うハズがないって。

 だから俺は、高校三年生の時の、あの目立たない雰囲気をしていた頃のその子の方が良かったと思うことにした。

 そうすることで、自分の本当の気持ちを無理矢理封印した。あまり目立たない頃のその子が好きだったと思うことにして、自分を納得させたんだ。そして、その子が北海道へと帰る日、俺は後者の気持ちを告白した。


 

そしたら彼女、

『ごめんね』

って。



 何で? って思った。会うまでは一人で浮かれてて、いざ会ったら、訳のわからない勝手な葛藤で、勝手に俺が落ち込んでるだけなのに」


 それからの彼は、浪人時代、大学一年生と、二年近くもの間、自分の気持ちを封印して過ごした。

 ところが、彼が大学二年の六月のことだ。時期的にはこの私と付き合い始める三カ月くらい前になるのだけれど、彼は、もう一度その北大の女の子と再会する事になる。そしてこの時も、彼の本当の気持ちは、彼自身によって封印されようとしていた。

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