十一話

 だけど、元々お袋にもそういう部分があった訳だし、無理もないよな。彼は、そ

う付け足した。

「それからは数日は、気分の晴れない日が続いた。相変わらず俺は、躁の状態と鬱

の状態を行き来してた。ぼんやりと、漠然とした淡い不安と緊張とが続いていた。

 地元の友達とか、大学の友達に話を聞いてもらって、気分を軽くしてたんだ。友達と話してる時は気分が紛れて普通に戻れるし。マジで友達には感謝した。今もだけどね。実は、健史先生にも話したんだ。ここまで詳しくは話してないけど、概ね内容は理解してもらってる。

 そこでまた学んだよ。もし相手のことをより深く知りたいと思うなら、先ずは自分からオープンにならなきゃいけない、ってことをさ。それに、自分だけじゃないんだ、ってことも。意外と自分と似てるヤツって結構居るなって思った。勿論、俺がそれを知ることができたのは、自分の事を話すという行動を起こすようになったからだ。健史先生なんか、ホント俺と似てるとこあるなって思った」


 彼が、私の方に顔を向けた。

「そうだったんだ」

言われてみれば、その頃からだっけ。彼と、健史先生の仲が深まり出したのは。朧げな記憶が呼び覚まされる。


「ある日、お袋が病院を紹介してくれたんだ。何だかんだ言っても、やっぱり俺のことを心配してくれてた。知り合いの人にそれとなく聞いてくれたらしい。自分の息子が行く、というのは当然伏せて。古い人間なせいか、やっぱそういうのに偏見持ってるみたいだしね。うちのお袋。まあ、ぶっちゃけ俺もそうだったけど。


『あんた、軽い躁鬱病かもね』


 お袋が言ってた。言われてみて、確かにそうかもな、って俺も思った。良い状態と

良くない不安定な状態の波が、交互に押し寄せて来るし」


 結局、行ってみることにしたよ。彼が、語り続ける。

「ちょっと遠かった。チャリで三十分弱か。思ってたよりも普通の病院っぽいな。中に入った第一印象はそんなとこ。ただ、医療器具があまり見られなかった。

 そりゃそうだよね。次に思ったのは、この人どこが悪いんだろう? って。身体の不調で来てるんじゃないから、特別顔色悪いわけじゃないし。見たところ健康そうな人ばっかだった。ボンタンみたいのを履いた、がたいの良い土方の兄ちゃんも居た。

 最初は、待合室で結構待たされたな。診察室の隣にカウンセリングルームみたいなのがあって、初診の人はそこで先ず質問を受けるんだ。しばらくして、俺はそこに呼ばれた。眼鏡をかけた中年のおばさんに色々と訊かれたよ。

 いつからそうな風になった? とか、小さい頃に何か衝撃的な体験をした? とか、

ね。おばさんは俺の言うことを、逐一シートに記録していったんだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る