第4話俊一の苦悩

俊一が帰宅すると、こずえがソファーに座りながら、テレビの録画を見ていた。深夜韓国ドラマが流れていた。

こずえの右足は包帯がぐるぐる巻きにされていた。

「こずえ、足大丈夫か?」

「大丈夫じゃないから、包帯巻いてるの」

「そっか、痛そうだな。洋介は、塾?」

「うん」

と、短い会話をして俊一は作業着を洗濯かごに投げ入れ、シャワーを浴びた。

今日の作業は、中古車をオーストラリアのウエリントンに向けて輸送船に2000台積み込んだ。

疲れていた。

シャワーから上がると、洋介が学習塾から帰っていた。

「パパ、夜ご飯ピザだって!」

と、洋介は嬉しそうに言った。こずえの足じゃ、キッチンに立てないから、代わりに俊一がキッチンに立とうと思っていた。腕には自信がある。目玉焼きは任せろ!と言いたかったがピザを選んだ。


1時間後。

家族はピザを食べながら、

「ママ、今週の京都旅行、誰が車運転するの?」

洋介は無邪気にこずえに尋ねた。

「それはもちろん、パパよ!パパは名古屋海運の監督だから、毎日現場まで会社の車運転してるみたいだから」

俊一は、ビールが急に苦くなってきた。

「パパ、久しぶりのPorteの運転だね。パパは僕が小学生の頃ママの車運転して、ガードレールにぶつかったよね。パパの運転、ジェットコースターより怖いよ」

「その事なんだが、京都に行くなら電車使わないかい?パパは通風なんだ。ね?」

2人の家族は、

「ウソつき。あなたの尿酸値低いじゃない。出来るだけ、安上がりの旅行するんだから却下」

洋介は、

「久しぶり、ジェットコースターに乗りたい気分だから却下」

と、小生意気だ!

俊一は会社でも車を運転していない。今週末の車の運転は5年ぶりだ。

大丈夫。

ギアをDにして、軽くアクセルを踏めばいいのだ。そして、ブレーキさえ踏めば危険な運転にはならないはず。

頑張れ!俊一。

そう、心の中で俊一は自分に言い聞かせた。


あっという間に土曜日の朝になった。前夜、キャリーバックに荷物を入れた。一泊二日の旅行なので、そんなに荷物はなかった。着替えくらいだ。

自家用車のPorteの運転席に俊一が乗り、助手席にこずえ、後部座席に洋介が乗った。

いよいよ、恐怖のドライブが始まろうとしていた。

さて、俊一は緊張で汗だくになっていたが、誰も気付かない。

呑気なもんだ。こっちは、命を預かっているんだ!

全員がシートベルトを着用すると、バックミラーを自分の目線に合わせた。

「あっ、俊君、やっぱり運転慣れしてるね」

「ま、まあな」

そして、こずえがカーナビを目的地へセットした。

俊一は車のエンジンをかけた。

いよいよ、出発だ!俊一は吐きそうだったが。

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