第3話ハプニング

京都旅行の計画を立て、旅館も予約した。後は、再来週の土日を待つのみ。お金は、こずえの銀行からではなく、俊一の銀行から引き出し、旅行代理店に支払った。

旅館で夕食を済ませたら、近くの飲み屋に家族で行く事を予定しているので、とりあえず10万円準備した。

しかし、ハプニングはその週末の旅行に行く月曜日の朝に起きた。

俊一は朝早く出勤し、息子の洋介の登校を見送ってから、マンションのエレベーターを降り、駐車場に向かう階段でこずえはつまずき、派手に転んだ。

会社の制服はスカートなので、膝を擦りむき血が流れ出た。

こずえは、「いって~」と、言いながら立ち上がると、右足に激痛が走った。

みるみる、右足首が腫れ上がる。

会社に連絡し、痛い右足を引き摺りながら、近所の整形外科を受診した。

病院は、リハビリの老人がソファーを占領していたが、こずえの出血を見て、おばあさんがこずえに席を譲った。

こずえは、「ありがとうございます」とお礼を言って順番を待った。


こずえはレントゲンを撮り、処置室で擦りむいた膝にガーゼを当て、テーピングされた。

そして、名前が呼ばれ車椅子に乗せられたこずえを看護師が診察室まで押してくれた。

「渡部こずえさんですね」

「はい」

「足首にヒビが入ってますね」

「……」

「石膏で固めます。しばらくは、不自由でしょうが松葉づえを使って下さい。一応、貸し出しに五千円かかりますが」

「週末には、治るんでしょうか?」

こずえはそこしか、知りたくない。もう、キャンセル料が発生する。

「アハハ、無理ですよ。ヒビは骨折よりタチが悪くてね。せめて、1ヵ月」

「い、1ヵ月~!」

「と、言う事で看護師に松葉づえの使い方を教えてもらって下さい」

「……分かりました」


こずえは会社に電話して、月曜日だけ休む事を伝えた。しばらくは、出勤出来ないかと思われたが、会社の先輩が家の方向が同じなので、1ヵ月近く送り迎えをしてもらえる事になった。

そして、俊一に右足にヒビが入った事を伝えた。

俊一はそのメールに気付き、こずえの足首の心配をした。

だから、京都旅行は延期か?と思われたが、メールの最後の一文に、

【週末の京都旅行。自動車の運転はあなたに任せるわ】

と、あった。

それを読んだ俊一はお腹が痛くなり、会社で思いっきり下痢をした。

『どうしよう。大変な事になっちまった!』

別に高速道路を使う訳ではない。

名古屋から1号線で京都までだ。若い頃は、高速道路を走り名古屋から九州まで運転したではないか。

そんなことを考えながら、便座に座っていた。

ブリッ!プス~

何てコッタイ。尻だけは、元気だった。

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