Colour 1
春、季節外れの雪により、道端に雪の
「
学校まで、あと数メートルというところまで来た。その時、後方から私の名前を呼ぶ声がして振り返る。と、こちらへ息を弾ませながら走って来る愛美の、
「おはよう、
「今日から、うちらも高校生なんだよね。なんかまだ実感ないけど」
お友達の一人である、
今日の愛美が、いつもよりも大人っぽく見えるのは、
私と違って、すらっとした背と綺麗なボブヘアが女の子らしく、メイク映えしそうなツルスベの肌といい、ふくよかな胸に細くて長い手足といい、理想体型とでも言うか。しかも、裏表なく素直で明るい性格ときた。
そんな愛美を放っておく男子はいないわけで、彼女の周りには、いつも男女関わらず誰かがそばにいる。
私はというと、幼稚園の頃から習い始めたクラシックバレエを続けているせいで、髪型だけはここ数年ずっとロングのまま。気になるのは、片方の目だけ奥二重で、少し丸めの鼻といい、形は良いけど小さめな胸といい。何もかもが不完全という感じは否めない。
勉強も普通に出来るくらいだし、運動神経だって良いというわけでもない。ただ、しいて言わせてもらえるなら、クラシックバレエで鍛えた音感やプロポーションだけは自信があるかな、というくらい。
そんなわけで、愛美からどちらが先にカレシが出来るか。などと、プチ挑戦的に言われても、私としてはカレシよりも友達が欲しいと、思っていたりする。
「私は出来たら、イケメンで優しいカレシが欲しいなぁ~」
「愛美って、ほんとイケメン好きだよね」
「うん、好きだよ! っていうか、嫌いな人っている?」
「……いない、かな。あはは」
言いながら、ふと、私たちを追い越していった男の子の横顔に見覚えがあるような気がして、私は無意識のうちに目で追ってしまっていた。
(あれ、どこかで見たことがあるような……)
「あっ! 思い出した、
思わず、
「
「……
「覚えてないかな? 小学5年の頃同じクラスだった私のこと。っていうか、東京に戻って来てたんだね!」
「あの、ごめん。知らない……です」
「え、あ……そう、ですか。なんか、こっちこそごめんなさい。急に声かけてしまって……」
苦笑いを浮かべ、玄関のほうへと向かう彼を気にかけながらも、私はなんとなく
宮本佑真くん。たぶん、私の初恋だったのだと思う。
小学5年の春。転校生として迎え入れてから、
あの頃もそうだった。中世的な
私はいつか告白出来たらと思っていたのだけれど、小学6年の夏。突然、佑真くんのお父さんが京都に転勤することになり、佑真くんはご両親と一緒に京都の学校へ転校してしまったのだ。
一緒に過ごせたのは、たった一年ちょっと。佑真くんの最後の登校日も、引越し当日までも、やっぱり想いを伝えることが出来なかったことで、私はしばらくの間、気持ちを切り替えられずにいた。
「なんか、話が見えない……」
愛美の、少し
「今の人ね、小学5、6年の頃に同じクラスだった子だと思って声をかけたんだけど、違ったみたい」
「莉生のこと知らないって言ってたもんね。他人の
「そう、だね。そういうことにしておこう」
とは、言ってみたものの。あれは絶対に、佑真くんに違いない。名前を呼ばれて振り返っていたし、いくら成長しているとはいえ、好きだった人の顔を忘れるわけがない。と、思いながらも、私のことを
もしかしたら、私と分かっててわざとあんな態度を取ったのかもしれない。などと、悪い方へ考え出したらキリがない。
入学式では気づけなかったけれど、同じ高校に通うことになったということは、これからまた、東京で暮らすことになったのだろう。
本当なら、感動の再会となるはずだったのに。
この時の私はまだ知らなかった。佑真くんの本当の気持ちを。
*
*
*
それから、佑真くんとはクラスが違うせいもあり、なんの接点もないまま。彼が私の知っている佑真くんであることだけは確認済みなのだけれど、廊下などですれ違っても何も話しかけられずに、二週間ほどが過ぎ去ってしまった。
そんなある日の放課後。
担任の原田先生から、新しい本を図書室へ運ぶように言われ、厚めの本を5冊ほど抱えながら体育館わきの通路を通った時だった。
ダンッという床を
それは、面や胴着を着こなした剣道部の人たちで、その中の一人が面を外した。次の
「佑真くん……?」
佑真くんは、舞台上にある白いタオルで額の汗を拭い始めた。何となく、こちらを見た気がして
(なんなんだろ、あれ。胴着似合いすぎでしょ!)
もっと見ていたい
「セーフ……」
今度は
「大丈夫?」
「は、はいっ」
「それ、持つわ」
「え……」
私から本を奪うと、彼は「図書室に持っていくんやろ?」と、真顔で言って歩き始める。
「いやいや、私が頼まれた本なんで……私が持って行きます」
「危なっかしいから、階段上りきるまで持ったる」
「あ、ありがとうございます……」
(何年生だろ。なんか、大人っぽく見えるから先輩だろうな……)
どこか、とっつきにくそうな感じだけれど、180くらいあるかもしれない身長も、
階段を上りきり、本を受け取ろうとしてそのまま目の前の図書室へと入って行こうとする彼に、私は慌てて声をかける。
「あの、本……」
「すぐそこやから」
また、ぶっきらぼうに返され、私は何も言えないままその背中を追いかけた。そして、図書室に
「これからは気いつけや。ほなな」
「あ、あの……」
「ん?」
図書室を後にしようとした彼を呼び止めてしまってから、何を言うつもりだったのかと焦ってしまう。
「いえ、あの……その……」
「なんや?」
こちらを振り返ったその瞳は、なんていうか、「まだ用があるのか?」と、言っているみたいで、引き留めてしまったことを後悔しはじめる。
「な、何でもありません! ありがとうございました!」
急に恥ずかしくなって、私は急いで上って来た階段を駆け下りた。
(あれ? なんでこんなにドキドキしてるんだろう……)
知らない感情だった。それでいて、どこか
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます