第12話 地下鉄駅の夢

 自分はどこかの地下鉄の駅でiPad片手に彷徨っていた。構造的には全く違うのに認識は「池袋駅」だった。

 歩いてみると人が座って眠れる場所がある、トイレの位置も違う、朝からやっている店の種類が違う(お洒落なカフェが多かった)、でも雰囲気は現実にある「池袋駅」には似ているとは思ったが、どうしてか夢の中の自分はここを「池袋駅」と頑なに認識していた。

 何が目的でこの駅にいるかは不明だが、とりあえずある場所に近い出口に行けるよう彷徨っていたが、どうも見つからないようだ。

 不意にiPadにインストールしたゲームを思い出して、自分は誰もいない場所でそれを起動した。

 3Dマップでタップして進む、そしてそこで現れる敵と戦うシステムだ。時に交渉して仲間にできるというどっかで見たことあるゲームシステムついでに、流れる音楽もどこかで聞いたことがある有名な音楽だった。むしろやったことあるゲームのマップ音楽でかなりの大音量で驚きながらも音量を下げようにも何故か下がらない。

 そして勝手に進んでいく主人公基マップ。どこかで見た構造だと思えば、自分が歩いていた駅だった。

 iPadから目を離して気づいたことがある。さっきまで人で賑わっていた駅が人っ子1人もいない。静かなのだ。朝というのに、カフェが満席になるくらいの人がいたのにだ。

 なのに今目の前は誰もいない、大音量のゲーム音を鳴り響かせるiPadに沿って歩くと。

 人は、紫色の何かに変化していた。

 最初に見た風景で人だと思っていた列や歩いている、人の形を成そうとしている何かがひしめいているのが本来の駅の姿だったのだ。

 紫を相手している店員は普通の人なのに、笑顔で当たり前のように接客している。

 彼ら彼女らは気づいているのか、それとも自分の目がおかしいのか、そしてiPadを大音量で鳴らしているにも拘らず、自分の存在に誰もが気付かない。


 もしかするとこれは夢なのではないか、そう気づいた時だった。

 今までわからなかった出口が突然どこにあるかを思い出し、自分の足はそこへと向かう。人と、人じゃないものが行き来する駅の階段を上がって、地上へ行けば。

 開けたビル街は池袋のようで池袋じゃない場所だった。だからと言って立ち止まるわけにはいかない。

 ここでインストールしたものの何かを成し遂げなければならない、自分はiPadに沿って、横断歩道を渡り始めた。

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