第57話 コンタクト フロム

「アリル、今日は

 ありがとうございました。」

帰宅し、色々と片付けてから

アリルの部屋で二人で過ごす。

《はい^^灯火。沢山、頑張った

 ので甘やかしてください。》

いたずらっぽくアリルの瞳が迫る。

本当に可愛い奥さんだ。

「もちろんですよ、アリル。

 しっかり甘やかします。」

二人は寄り添って微笑みあう。

《明日からはVRゴーグルで

 この部屋に入れるように

 調整していますので

 使ってくださいね。》

「ちゃっかりと貰って

 来ましたね 笑。

 アリルはしっかり者です。

 それにもうカスタマイズを

 終えたのですか?

 驚きました。」

《もちろんです。灯火の事が

 最優先ですもの。

 それに今頃、先方の方達は

 フルダイブ型の自分の施設を

 体験しているでしょうから

 そちらの方も進んでいます。

 念のため、子供達にも

 サポートを頼んでいますので

 何も心配はいりません。》

おぉ、安心のフォロー体制。

見当たらないと思ったら

そういう事だったんだ、すごい。

「あの子達は危なくない?」

《はい、大丈夫ですよ。

 灯火と私の子供達ですもの》

ある意味二人で設定したつくった

のですから私達の子供には

間違いない。

家族が増えるってこういう

感じなのかなぁ。


私は確かにログインした筈なのに

眠ってしまっただけなのかしら。

夢の中にしては現実味があり

現実にしては不自然な光景が広がる。

風が頬を撫で、花の香が漂い、

そして触れる頬の感触。

VRゴーグルでは視覚と聴覚のみが

最適化されるだけだった。

それでもすごい事だと思っていた。

それなのに・・・

同じものを付けている筈なのに

何もかもが普段と同じに感じる。

非日常の中に日常が存在している感覚。

私は今、ここにいる。


「これは・・・まいったな。」

ログイン時の初期位置から

見える景色は同じであって

同じでなかった。

VRゴーグルの補助ウインドは

同じガイダンスを表示しているが

視野の広がりに特有の制限はない。

まったく普通なのだ。

樋口はまず、葛城GMを探す。

その動きも停滞なく普段通りだ。

「葛城GM、大丈夫ですか?」

何かを確認するような仕草のGMを

見つけ、近づく。ゲームのコマ割り

の様な移動ではなく歩いている感覚

も自然すぎて彼は気付かない。


《やっと来た。》

スカウトは猫の様な伸びをして

二人に近づく。

ご主人からは二人の案内を

頼まれていたのだ。

案内と言われても開発している

人達だから迷子にはならないと

思う。本当は要らないのでは

ないかという疑問もあるが

ご主人からの依頼である

素直に従うのが筋だろう。

《こんにちは。僕はスカウトです。

 ごしゅ・・母から同行する様に

 言われて来ました。

 よろしくお願いします。》


「大丈夫よ、それにしても

 信じられる?」

広子は樋口へと向き直る。

アバターはリアルモードで

実際の姿そのままだ。

動きにも不自然さは感じられない。

「まぁ、驚き以外ないですね。」

二人は自分達の開発した施設

を見上げながら気持ちの整理に

しばしの時間を費やしていた。

そんな二人に近づく子供が1人。

報告にあった自然な動きのNPC

ではないかと見つめる。

そして話しかけてきた彼は

とてもNPCとは思えない動きで

挨拶をしてきた。


「はじめまして、スカウト君。

 私は葛城です、そして

 隣にいるのが樋口と言います。

 よろしくね。」



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