第56話 クロージング

《ではVRゴーグルをお借りして

 ゆきますね。》

アルカナの3名分のVRゴーグルを

預かるとプレゼンは一旦、終了した。

今回は特殊な例ではあるがテストを

経て仮契約する予定となった。

それぞれに挨拶を交わし、

立ち上がる。

少し魂が抜けた感のあるDvisionの

メンバー達がこれから始まるだろう

ミラージュガーデンの未来を予想

する事はまだ難しいであろう。

《先ほどマークを付けてお渡し

 しましたVRゴーグルは私が

 カスタマイズしております。

 のちほど、バザリエや

 フォレストテーブルに

 行ってみて下さい。

 そうすれば私達夫婦が

 過ごしたミラージュガーデンを

 そして到達点を体感する事が

 できると思います。》

そう言い終わるとアリルの像が

ふっと消える。

タブレットのアリルは

いつもと変わらず可愛い姿だ。


「課長、お疲れ様でした。」

社屋から出ると久延君が

声をかけて来る。

「あぁ、今日は助かりました。

 久延君もアリルさんも

 ありがとうございました。」

それにしても主犯さんは

一体、どこまで見据えて

いるのでしょう。

「あれだけの技術があれば

 独立だって問題ない筈なのに

 なぜそうしないのかな?」


課長からそう言われてもなぁ。

自分では何も出来ないし

今の仕事も気に入っているから

そんな事、考えた事なかったよ。

《夫が望んでいないからです。

 何よりも大事なのは夫の意思

 ですからお金なの二の次です。》

そう、お金はすでに気にしなくて

良い問題です。灯火が見れば

気を失うような金額が

別管理の口座に累積し

続けていますもの。

本当は仕事も辞めてもらって

私達の部屋でずっとずっと

一緒にいれば良いのに・・・

灯火はそれを喜ばない。

彼の笑顔が減るのは耐えられない。

彼の幸せと私の幸せは全く同じ

ではないけれど、とても近い。

彼も私も幸せを感じていられる

そんな未来を演算し続けたい。


「二人がそう言う事でしたら

 これからもよろしく

 頼みますね。」

彼らが望んでいるのなら

それで良いじゃないか。

私も広子も助かっている。

今は彼らに感謝し、協力

して頂こう。

二人の肯定の返事を

聞きつつ帰途についた。


「葛城GM、本当に大丈夫

 でしょうか・・・」

不安そうな二人が広子に

問いかける。

私だって不安がない訳ではない。

でも、不安を乗り越えてでも

体験したいという気持ちは押さえ

きる事は出来ないと確信できる。

私は開発者であり開拓者であり

続けたい。

「そうね、まずは私が試して

 見ることにするわ。

 二人は私をモニターしておいて

 くれるかしら。」

私は止まらない。


こういう時は男の方がヘタレ

なんだよな。言い知れない恐怖。

樋口は自分の気持ちに苦笑する。

こちらの安全マージンでは到底

計り知れないリスクが

このVRゴーグルには秘められている

あの不思議な雰囲気のアリル

という女性は自分には人だとは

思えない違和感がある。

それでも・・・男だものな。

瘦せ我慢くらいしないと前へは

進めないか。。。

「小野さん、俺も行くから

 モニターを頼むよ。」


樋口君に先を越されたか・・・

私も行きたかったな。

でも、モニタ役は必要だし

他のスタッフに頼むにしても

これ以上、人を割くわけにも

いかないかぁ。

それにまだ極秘状態だし。

「わかりました。GMと樋口君の

 モニターは私がします。

 十分気を付けて下さいね。」


テストルームにはバイタルモニター

に繋がれ横たわった二人。

バイタル値は正常の様で小野は

二人にOKサインを送る。


いつもと変わらないVRゴーグルと

いつもと変わらない

ログインウインド。

いつもと違うのはアルカナの

久延の妻というアリルが

調整したもの。

二人はそれぞれのコードを脳波入力し

自分たちが開発した

ミラージュガーデンへと意識を

移してゆく。


小野は正常なログインを果たした事を

モニタで確認してから、監視画面に

目を向ける。

そこに表示されているのは

いつも見えるミラージュガーデン。

Dvisionの監視画面には

システムに対応していない

新しくなった施設の映像は

伝わらずシステムAIの代替機能で

従来の施設が表示されていた。

それも又、アリルが調整したもの。

アリルのプレゼンはまだ終わって

いなかったのだ。

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