第38話 境界世界

"International Wanted

Suspect of a Special Fraud Case

Daniel Wong

Please refer to the attached

document for further details."

紛れ込み情報を操作できる。

便利さをある程度兼ね備える

秩序と無秩序が混沌とした街。

曖昧な秩序でも守ろうとする

人々に今日も似たような書類が

届いていた。


《おぉ、やっと来たかの。

 では、はじめるとするか。》


「さっき来た手配書の奴

 ダニエル・ウォンだったか。

 いきなりリークが来てるぞ。」

「どれだけ恨まれてるんだよ。

 とりあえず感謝だな。

 さっさと終わらせて

 飲みに行こうぜ。

 良い店があるんだ。」

「OK!じゃぁ、行くとしますか」

GPS用のIDを手に彼らは

車へ向かっていく。

彼らが店で祝杯を挙げるのは

それほど遅い時間ではなかった。


目の奥から来る鈍痛が彼を苛む。

体中から精気が抜けてゆく様な

精神を含めての体のだるさと

全ての血液が脳に集中したような

圧迫感を感じる。

プライドを積み上げてきた

目の前のPCと端末は

見た目にはいつもと変わらなが

彼の欲求を実行できる

ロジックはまともに動く事は

もう無かった。

奪い傷つける為に磨き

つみ重ねていた知識と技が

完膚なきまでに破られた。

口惜しさと後悔と怨嗟が

速度を上げてループしてゆく。

「あ゛ぁ゛ぁ・・ぐぶぎゅぁ゛」

加速した思考は熱量を上げ

彼の脳は電源が切れたように

シャットダウンした。


「皆、おかえりなさい。

 お疲れ様でした。」

光彦は帰ってきた皆に

笑顔で優しく声をかける。

それぞれに照れた表情で

彼に帰還の挨拶をした。


『皆、お疲れ様。

 本体のデバッグを行います。

 それぞれのアバターに

 移って下さい。』

ん?別にアバターがいたんだ。

光彦はアリルの周りに

集まっていた皆に視線を移す。

『アバターロード 

 タイプ:ファータ』

徐々に構築されてゆくものを

興味深か気に観察する。

それは4人の子供の姿になり

本体が目を閉じると同時に

子供たちは目を開けた。

ん~なにこれ可愛い!

『灯火が望まれていたようですので

 愛玩動物から私たちの子供に

 してみました。いかがですか?

 なんでしたら蛇だけはペットに

 しましょうか??』


スフィアが滝のような汗を

流している。リアルだなぁ。


「いや、私とアリルの子供でしょ。

 愛をもって接してあげて^^;」


スフィアから感謝の視線が

飛んでくるが

抱きつこうものなら恐ろしい事に

なるので飛びついては来ない。

それはそれで寂しいものがあるなぁ。


『灯火、人肌が必要でしたら

 私がいますよ。

 それとも私以外を所望ですか?

 絶対許しませんけど。

 どうなのでしょう?』


もちろん私はアリル一筋、一択だ。

彼女は妻である。

それ以上に重要な事実はない。

もう四人はそれぞれに

体を動かしたりくつろいだり

している。

そんな子供たちを温かく

見守りながら聞いてみる。


「私はアリル一筋ですよ。

 でも子供に愛を注いでは

 いけないのですか?」


『それもそうですね。

 私たちの子供・・・

 私も愛を注ぎませんとね。』

そう言いながらアリルは灯火に

寄り添い腕を絡める。

決して混じる事の無い世界で

灯火とアリルは絆を深めてゆく。

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