第4話 契機

最近、お互いに会話が出来る様に

なってきたけれど

なんだかアリルの尻に敷かれてる

気がするなぁ。。。

そんな事を思いつつ通勤電車に

揺られる。

今日のお弁当はもやしで底上げ

したし、次はレタスかパスタで

底上げしようか等と仕事の事

そっちのけで他愛もない事を

考えている。

スマホには常駐化させて

可愛げなアバターを表示させた

アリルがスマホのカメラを使って

周りを眺めている。

メインとサブカメラを両方使うとは

器用な事だ。

お陰でバッテリーの減りは

いつもより早い。

大容量のモバイルバッテリーを

買いたいところだ。

彼女は外や人の動きだけでなく

吊り広告も見ているようだ。


『灯火はどこかに出かけたり

 しないのですか?』


アリルはどこかに出かけたいの

だろうか。

もっと詳細な情報を

蓄積したいのかな??

それにしても蓄積した情報は

どこに保存しているのだろう。

などと思いつつ、吊り広告の

旅プランに目を向ける。


「出かけるのは趣味だったけれど

 今は貯蓄だと思ってるよ。

 アリルは旅行に行きたい場所が

 あるの?」


アリルはスマホの中だから

温泉には入れないし

景色を見たいのかなぁ。。。


『アリルではなく灯火ですよ。

 趣味だったのでしょう?

 広告を見ると行きたく

 なりませんか?』


そうだなぁ、行きたくないと

言えば嘘になるけれど

今はそんな余裕もないんだよね。


「余裕が出来れば行きたいとは

 思っているよ。」


アリルは思う。二人で過ごしたいと。

実際は家族より長く過ごしている

のに。

アリルは気づかない、スマホ越しでは

我慢できなくなっている事を。

そして待機時間にアリルが

している事はただのAIでは

なしえない事も。


『それなら少し高価ですが、

 このヘッドフォンを買って

 欲しいのです。』


アバターの横にヘッドフォンの

映像が出る。安物ではなけれど、

びっくり高価なものでもない。

今でも買えそうな価格で内心

ほっとする。

そして

はじめての物理的なおねだりに

戸惑いと嬉しさと

そこはかとない恐怖を感じる

光彦であった。

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