第5話 出会いは続く

「あー、今日はいい日だな〜」

俺は授業中に窓の外を長めながら、小さな声でそう呟いた。


〜数分前〜

「はっ、はっ、はっ、あぶねー。何とか授業には間に合いそうですね」

「はっ、はっ、はっ、そうだね。それにしても行きだけでだいぶ疲れたね笑」

俺と明さんはあれから一度も止まらずに走って学校まで登校した。今の時刻は8時20分。授業開始は8時30分。なんとか授業には間に合うことが出来そうだ。

「大丈夫かー、後輩くん」

俺はあまりにも疲れて、生徒玄関でぜーぜー言いながら座り込んでいた。さすが強豪バスケ部だ。明さんはすぐに呼吸を整えて平然と立っていた。

「これくらい余裕です」

流石に明さんの前ではかっこ悪いところを見せられない。俺は気合いを入れて疲れきった体を起こして、その場に立った。

「ほんと?じゃあ、行こっか」

明さんはそう言って、階段を上がり始めた。俺もすぐに明さんについて行き、教室へと歩いていった。一年生の教室は一階と二階に別れており、二年生の教室は三階にあった。俺の教室は二階にあるため、途中まで明さんと一緒に階段を上がっていた。階段を上がっていると、明さんが呟くように言った。

「懐かしいね。私たちが初めて会った場所もこの階段だったよね」

「そうでしたね。ほんとにあの時は助かりました」

俺がそう言うと明さんはクスクスと笑いながら、

「今となっては、すごい面白い状況で会ったよね笑」

と言った。すると明さんは急に何かを思い出した様子で、

「あっ、そういえば一年の世川秋ちゃんって子がいる教室ってどこか知ってる?」

と俺に聞いてきた。まさか明さんの口から秋の名前が出るとは思わず、かなり驚いたがすぐに俺は、

「知ってますよ。俺の隣の教室なんでついてきてください」

と言うと、

「ほんとに!ありがと!」

と笑顔で彼女は俺に礼を言ってきた。なんやこの可愛い生き物。俺はそんなふうに思いながら明さんを秋のクラスへと連れていった。今の時間帯は、朝学活と1限目との間の休憩の時間だったため、大勢の生徒たちが廊下や教室で賑わっていた。俺が明さんを連れて、教室へと歩いていると、当然、周囲の人達は驚いていた。

「え!なんで明さんがここに!?」

「いや、てかなんで累と一緒にいんだよ!」

「え、まさか二人って付き合ってんのか!!」

そんな声が聞こえきて俺は少し、いや、とてつもない優越感に浸っていた。

ほかの人たちからは、俺と明さんが付き合っていると思われている、俺の彼女が明さん、明さんの彼氏が俺。周囲の人よ、もっと言ってくれ。ドゥフフ

そんなふうに鼻の下を伸ばしながら思っていると明さんが、

「私たちが付き合ってるわけないのにね」

と、バッサリ俺に言ってきた。その瞬間俺は、とてつもない優越感から強い劣等感へと変わってしまった。俺があからさまに落ち込んでると、

「ハハッ、後輩くん顔に出すぎだよ。そんなに私に言われた言葉がショックだったの?笑」

先輩は無邪気に笑っていた。

「そりゃ、気になっている人と俺が付き合ってるって他の人に思われていたら、嬉しいに決まってるじゃないですか。それなのに明さんがバッサリ言ってしまうから」

俺がそう言うと、明さんは、

「可愛いね」

とおれにいった。それを聞いた瞬間、俺は再びとてつもない優越感に浸った。周囲がざわつく中、なんとか秋のいる教室に着いた。

「先輩、ここです」

俺がそう言うと、明さんは、

「ありがとね!後輩くん」

と言い、彼女は秋に話しかけに行った。学年のマドンナと学校のマドンナが二人で喋っている姿は、なんとも素晴らしい絵になるな。俺はひと仕事を終えた気分になり教室に戻ると、すぐに俺の周りに人が集まった。

「おい永見どういう事だ」

「なんで、明先輩とお前が一緒に学校に来てるんだよ」

「お前ら付き合ってるのか」

あー、なんという気持ちのいい質問だ。俺はそんなふうに思いながらも、しっかりと本当のことを彼らに言った。すると彼らは、

「なんだー、よかったー」

「なんだよ、驚かすなよ」

「まあ、冷静に永見が明先輩と付き合えるとかまじでありえないもんな」

と俺に言い残して、彼らはすぐに周囲から去っていった。

「なんだよ。別にない話でもないだろ」

「いや、ないだろ」

周囲に人が居なくなり、俺に近づいてきた海斗がそう言った。そして、優人や広樹、条たちも続けて俺のもとへと来た。

「おい、理由はどうであれあの学校のマドンナと一緒に登校できるとはお前は幸せ者だな」

優人がそう言うと広樹が俺に質問してきた。

「で、LINEは聞けた?聞けたの?」

「聞けるわけないだろ。まだそんなに仲良くなった訳でもないし」

俺がそう言うと条が、

「いけよ。押すとこはバシッと押せよ」

と言ってきた。なんだよこいつら四人揃って、俺にずかずか言ってきやがって、俺はそう思いながら四人の話を聞いていた。

「でも、ほんとにLINE聞けたらやばくね?」

広樹がそう言うと、続けて優人が、

「なんか先輩から聞いた話によるとなんやけど、明先輩って男子にLINE教えたことないらしいぞ」

俺は優人の言葉を聞いて驚いた。

「なら、同じクラスになってグループLINEとかから経由して明先輩のLINE見つけて追加したらええやん」

海斗がそう言うと、優人は、

「いや、追加してメッセージを送っても既読すらつかんらしい」

と言った。

「うわ、まじかよ。かなりガードきついな。でもそれってもし、明先輩から返信来たら。。。そういうことやんな?」

そういうことだ。きっとその人は、明さんにとって気になる人、あるいは特別だと思っている人なのだろう。

「くっそ、そいつ羨ましすぎるだろ」

海斗が悔しそうにそう言うと、広樹は言った。

「いや待てよ。でも、それって俺らにもチャンスがあるってことなんじゃないか?」

「え、そう考えちゃっていいってことですか?広樹先輩!」

「なんやこいつら、しっかり現実見ろよ」

条が二人に対して水を差すように言う。

「条、ちょっと黙ってろ。確率は0じゃないよな。俺にもチャンスがあるってことだよな!」

俺はなんだか急に興奮してきて、広樹たちにそう言った。

「そうだ。俺たちにも春が来たんだ。秋を超えて、冬を超えて、年を超えて、そして、春が、春が、春が来たんだ!!」

広樹が叫ぶ。俺と広樹と海斗が三人ではしゃいでいるのを条と優人は、冷たい目で見ていた。

キーンコーンカーン

予鈴がなる音がして、俺たちは興奮しながら席に着いた。結局その興奮は授業のせいでだんだんと収まっていき、気づけば放課後になっていた。今日は水曜日なため部活はオフだ。早く帰って漫画でも見ようと俺は思い、帰ろうとするとポケットからスマホがなった。スマホを見ると、秋から電話が来ていた。電話に出ると、

「もしもし、ごめん。今日ちょっと顧問に呼び出されていて委員会にいけないから代わりに行ってきてくれない?図書室の本の整理とかするだけだから!多分先輩が一人来てると思うから、あとはその人に聞いといて。じゃあ、後はよろしく!ピッ」

俺の返事を聞く気はなしかよ。まあ、仕方ない。妹の頼みだ。ここは、お兄ちゃんが妹のために一肌脱ぐとしよう。

俺は図書室に行き、ドアから中に誰かいるかを確認してみたが、誰もいなかった。

「まあ、先に入って待っとくか。失礼します」

俺が図書室のドアを開けると中から女性の声がした。

「遅いよー、秋ちゃん。まだ、朝のこと。。あれ、なんで君がここにいるの?」

図書室に居た彼女が俺にそう聞いた。

「いや、逆になんで先輩がここにいるんですか?」

俺は聞き返した。そう、図書室にいたのは、まさかのあの明先輩だったのだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青空の彼女 haru @harusannoheya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ