第2話 繋がり

 翌日

 結局あの後、秋と少し話す時間があり、今後の生活について話し合った。その結果、

まず学校では他人のフリをする。

呼び方は、お互い家では下の名前で呼び、学校では上の名前で呼ぶ。

苗字は一旦高校卒業するまでは、変えない。

極力家でも用がない時は話しかけてこない。

 というふうな感じだ。これから家族になろうというのに、どことなく秋から距離を置かれてしまう。まあ、家に同い年の男がいると、警戒心が高まるのもわかる。打ち解けるには、かなりの時間がかかりそうだ。今日は告白のことといい、再婚のことといい、色々なことがあったため、俺は早くベッドに入って寝た。


 朝になり、重い体を起こして一階へ降りると机には朝ごはんが置いてあった。父と二人で暮らしている時は、いつも袋に入ったパンを食べていたので、手作りの朝ごはんをみた俺は感動してしまった。

「累くんおはよう。もう、秋は学校に行ったわよ。いつもはこんなに早く行かないのにね」

 キッチンで洗い物をしている政子さんが俺にそう言った。俺と同じ時間に家を出るのが秋は嫌だったのだろう。徹底的に距離を置かれてしまっているな。

 俺は朝ごはんを食べて、身支度をして、学校へ行った。登校時は特にいつもと何も変わらず、そのまま学校に着いた。学校に着くと、同じ部活の条が俺を見つけてすぐに話しかけてきた。

「気分はどうだ?今日から部活には行けそうか?」

 条は振られた俺を心配して声をかけてきた。昨日は再婚のこともあり、家では告白のことよりもそっちのことを考えていた。でも、今また改めて振られたことを思い出すと、胸がまた苦しくなる。しばらくはこの心の傷は消えないだろう。けれど、いつまで経っても振られたことへの悲しみを引きずってたって仕方がない。

「おう、行くよ」

 もうすぐ、地区総体だってある。俺は小学校からバレーをしていたため、ほかのスポーツはあまり得意ではないが、バレーだけは得意な方であった。そのため、1年生ながらも、今回の地区総体ではユニホームを貰えることができた。もしかしたら、レギュラーにもなれるかもしれない、そのため、この時期に振られたことをきっかけに部活に支障をきたすのはよくない。切り替えていこう。

 結局俺はいつもと何も変わらずに学校生活を過ごし、あっという間に部活の時間になっていた。俺は条と急いで部室に行き、着替えて体育館に行った。

「今日は、女バレが隣か」

 条がつぶやく。続けて条が言う。

「女バレってことは、秋ちゃんがおるんかー」

「あっ」

 俺は秋がいることを知り、つい声が漏れてしまった。

「どうした?なんかあったのか?」

 条は不思議に思い、俺に聞いてきた。俺はすぐに条に答えた。

「いや、なんもない」

 そうだ。もし、俺の妹があの秋だということがバレたら、一気に噂が広まってしまう。そうなったら、秋との関係がさらに悪化してしまう。気をつけろ、他人のフリだ。他人のフリ。

 それから俺は部活中もあまり女子バレー部の方を見ないで、練習に打ち込んだ。

「はー疲れたー」

 地区総体を2週間前に控えているため、いつもより練習がハードだった。練習が終わり、俺は疲れて体育館の壁に持たれて座っていた。座って休んでいると、横からまだ練習している女子バレー部の声が聞こえてきたので、俺は少しだけ女子バレー部を見ていた。

 七沢高校女子バレー部は、県内の中ではかなりの強豪で、もうすぐある地区総体の優勝候補でもある。そのため、練習時間は他の部活よりも少し長い。反対に男子バレー部は、強豪校とまでは言われないものの、大会によっては、かなり良い順位まで上がることもある。女バレの方を見ていると、条が近づいてきた。

「おいおい、明さんの次は秋ちゃん狙いか?」

 条が煽るように俺に言ってきた。

「んなわけないだろ。普通に練習長いなーって思いながら見てただけだよ。だいたい俺の好きな人は明さんだけだ。」

 累は答えた。それを聞いて再び条が質問をする。

「お前、振られてあんなに傷ついていたのに、まだ明さんのこと諦めないのか?」

 たしかに、俺は振られた。向こうも部活を優先したいらしいし、告白した相手はあの学校のマドンナと言われている明さんだ。当然付き合うのは難しい。だからといって、俺の気持ちが変わるわけじゃない。

「付き合えなくても、明さんのことを思うくらいは俺の勝手だろ。」

 俺は条にそう言った。すると条は、

「確かに誰か一人のことをそんなに強く思うことはすごいと思うし、それは大事なことだと思う。ただ、お前の好きな人はあの明さんだ。簡単に付き合えるわけがない。お前がまたあの人のせいで、傷ついて落ち込んでいる姿を俺は見たくない」

 と言った。こいつはなんて良い奴なんだ。でも俺は、

「付き合うのが難しいっていうのは分かってる。でも、せめて明さんが高校にいる間くらいは、あの人のことを思い続けていたい」

 正直、明さん以上の人はいないと思いながら、そう答えた。それを聞いた条は言った。

「わかったよ。傷ついて落ち込んだ時も俺がお前のそばにいるし、逆に万が一、いや億が一、お前が明さんと付き合えることが出来た時も俺が誰よりも喜んでやるよ。俺はお前を1番応援してる。」

 条とは中学から同じ部活で、1番友達の中で一緒に過ごしている時間が長いと言える人物だ。

「ありがとう、条。心強いよ」

 俺はとても良い友達を持ったもんだ。再び女子バレー部を条と一緒に見ていると、

「秋ちゃん、可愛いしバレー上手いとか、かなりのハイスペックだよな」

 条がニタニタしながら言ってきた。こいつは良い奴なんだが、少し気持ち悪いところがある。しかし、確かに秋はハイスペックだ。そんなハイスペックで、みんなから人気のある彼女が俺の家族で妹だなんて、未だに信じられない。

 これ以上見てて、秋に見てるのがバレたら、どんな冷たい態度を取られるかわからない。

「帰るか、条」

 結局今日は、明さんに一度も会わずに俺は条と一緒に家に帰った。


「ただいまー」

「おかえりなさい」

 リビングに入ると、キッチンで政子さんが料理をしていて、テーブルにはいつも帰りの遅い父がいた。

「今日は早いんだね」

 俺がそう言うと、父は、

「政子さんと少しでも長くいたいから、今日はちょっと早く帰らせてもらったんだよ」

 政子さんと一緒に暮らせていて、いつもより幸せそうな顔をする父。それを聞いて、少し恥ずかしそうな顔をする政子さん。この二人は本当にお似合いだ。

「そういえば累、ジャルって覚えてるか」

 久しぶりにその名前を聞いた。ジャル、その名前は、俺が小学生の頃に所属していたバレーチームの名前だ。

「覚えてるよ」

「じゃあ、ジャルに入っていた女の子を覚えてるか?」

 父からそれを聞かれて思い出した。あー、すごく懐かしい。その子は俺とすごく仲が良かった子で、俺の初恋の人でもあった。ただ、その子が今、どこで何をしているのかは、今の俺には分からなかった。


 9年前

 俺が小学一年生の時に初めてバレーに興味を持ち、そこからジャルに入ることになった。入部してしばらくしてからの俺は小一ながらもバレーの難しさ、厳しさに直面していた。一向に上手くならなくて、体育館の隅で一人で泣いていた時、ある女の子が俺に声をかけてきた。

「大丈夫?なんで泣いているの?」

 俺はその子に理由を話した。するとその子は、

「そうなんだ。だったら、私と一緒に頑張ろうよ!」

 その子はそう言って、俺と指切りをして、一緒にバレーを頑張ってくれることを約束してくれた。それからの俺は、辛い時や悲しい時にあの約束を思い出して、その子の頑張っている姿を見てより一層、バレーの練習を頑張っていた。いつしか俺はその子のことが好きになっていた。しかし、そんな日々は1年もしないうちに終わってしまった。彼女は突然ジャルをやめてしまったのだ。その時の俺は、もちろんショックだったけれど、バレーを続けていれば、またいつかあの子に会えるだろうと信じて、バレーに打ち込んでいた。


 今では明さんという別の気になる人が出来て、その子のことは父から言われるまで忘れていた。

「あー、覚えてるよ。かなり前のことだから、顔や名前は覚えてないけどね」

 俺がそう言うと、それを聞いた父は耳を疑うような発言をした。

「これを聞いて驚くなよ。その子、実は秋ちゃんなんだ」

 続く

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