第50話 退学、そして旅立ち

 

「みんな。俺は明日、ここを出ていくよ」


 クラスメイトたちが帰って来てくれると約束した日から1か月が過ぎた今日。俺は朝食を食べに集まったリエルたちに向かって、学園を退学すると宣言した。


「……そっか」

「明日なのかにゃ」

「わかりました」


 フリストとニーナ、アルメリアは、あまり驚く様子を見せなかった。


「最近のユーマ、仲間のことですごく不安そうだったから。ここを出ていくって言うの、そろそろなんじゃないかなって思ってたの」


 リエルがそう言う。

 みんな気付いていたみたいだ。


「相談とかしなくてごめん。でもこの1か月で、みんなが希望する新魔法のことをたくさん伝えることができたと思う。きっとどこに行っても活躍できるよ。アルメリアは聖女になれるって、俺は信じてる」


「ありがとうございます」


 特に引き留められたりすることはなかった。


 期待してなかったと言えば嘘になる。でも彼女たちにも、俺が魔法学園から出ていくことを納得してもらえているなら、それに越したことはない。


「みんな。短い間だったけど、楽しかった。本当にありがとう」



 ──***──


 翌日。


 学園長に頼んで退学手続きをさせてもらい、俺は学園の外に出た。


 実は今日出ていくことは、少し前から考えていた。


 だから準備はしていたんだ。


 食料とかは買い込んだし、移動用の二頭立て馬車も購入している。今はその馬車を回収しに向かっているところ。


 馬車購入資金などは新魔法研究会から援助してもらった。本当は護衛の冒険者をとかも雇いたかったけど、魔王討伐の旅にこの世界の冒険者を巻き込むのもどうかと思い、ひとりで行くことにした。


 もし旅の途中、雇った冒険者たちと仲良くなったら……。


 魔王の配下にその冒険者たちがやられた時、俺は気を病むかもしれない。


 ひとりで良いんだ。

 もちろん寂しい。


 でも仲間になった人の死を見たくはない。

 そっちの方が俺にとって重要だった。


 大丈夫、俺にはアイリスがいる。


『どこまでもお供します、祐真様』


「アイリス、ありがと」


 馬車が見えてきた。


『祐真様。リエルさんたちに、お別れを言わなくて良かったのですか?』


「……仕方ないよ。今朝からみんな出かけちゃって、戻ってこなかったんだから」


 街に行っただけだと思うので、探せばよかった。


 寮には彼女らの持ち物もあったから、新たに特許登録した新魔法で探すこともできたはず。でも俺はそうしなかった。


 必要なことは全部伝えたし、昨日が最後だと思ってみんなで食事にも行った。


 これで良いんだ。



『ちなみにですが私、祐真様が寝ている時でもフリストさんと会話できるんです』


「えっ、そうなの?」


 知らなかった。

 でもなんで今更そんなことを?


『それから私はマスターの願いを叶えるスキル【ガイドライン】です』


「えっ、なに? どうしたの?」


 急に脈絡のないことを言い出されて困惑する。


『ひとりで寂しく旅をするより、可愛い少女たちが同行してくれた方が祐真様はお喜びになる。その方が精神的にも良い。私はそう判断致しました』


「アイリス、何を言って──」


 その時、止めてあった馬車の荷台から誰かが降りてきた。



「ユーマ、やっと来た!」

「待ちくたびれたにゃ」

「僕らの準備はもうできてる」

「さぁ行きましょう。ユーマさん」


 リエルとニーナ、フリスト、アルメリアが魔物と戦う時の服装で立っていた。


「な、なんでみんないるの!?」


「馬車の場所はアイリスから僕が聞き出した」


『勝手にお伝えしてしまい、申し訳ありません』


 いや、違う。

 もちろんそれも知りたかったけど。


「俺は魔王を倒しにいくんだよ? それはみんなに話したよね。俺と一緒にこの世界に来た勇者たちが帰ってこないんだ。もしかしたら勇者たちより強い敵がいるのかもしれない。すごく危険な旅になる可能性が高い」


「うん。しってる」

「理解してるにゃ」


 アルメリアが前に出てきた。


「私はこの世界の聖女候補です。今は何十人もの異世界人がこちらに来て、魔王を討伐してくださいます。しかしセシル暦以前は、そうではありませんでした。異世界から来られたおひとりの勇者様にこちらの世界の住人で力を持つ者が同行し、共に魔王を撃ち滅ぼしていたのです」


「その勇者と一緒に魔王を倒した聖女候補が、次の代の聖女になれるって習わしだった。つまり今回ユーマに僕らがついていくのは、アルメリアを聖女にするために必要な儀式だと考えてくれて良い」


「だから私たちはユーマについていくって決めたにゃ」


「わ、私は完全におまけなんだけど……。ついていっちゃダメ、かな?」


 リエルが俺の元までやって来て、上目遣いで聞いてくる。


 コイツ、こうすれば俺が折れるって分かってやってるだろ。


 童貞を舐めるなよ。

 

 美少女が繰り出すそんな強攻撃をくらって、断れるわけないじゃん。


 連れて行けというなら断れない。

 でも確認は必要だ。


「みんなには話してなかったけど、俺はたぶん魔王を一回見てる。すごく強い魔法を使ってきた。そんな強敵の所に行くんだ。命の保証はできないよ」


「それはもちろん覚悟している。何があろうと、アルメリアは僕が守る」


「私もそのつもりにゃ」


「みなさんが怪我したら、私が絶対に回復させます。しかし、それより今は気になることがあるんです」


「魔王を見たのに、生き残ってるユーマってすごいよね」


「それな」

「それにゃ」

「それです」


 俺だけなら魔王の攻撃に晒されても死なない。


 でも、みんなは──



『だから、創れば良いんですよ。そーゆー魔法を』


「あぁ、なるほど!!」


 今この世界には、自らの魔力量に応じて仲間の防御力を高める魔法なんて存在しない。でも、ないなら創れば良いんだ。


 俺にはスキル【特許権】がある。


 この世界のルールを変えちゃえば良い。


 そう思ったら気が楽になった。

 第一目標を変える余裕も生まれた。


「やっぱりみんなのことは俺が守るよ。絶対に守ってあげる。だから、一緒に俺のクラスメイトたちを探してほしい」


「えっ、魔王は?」


「もちろん倒すよ。でもそれは、勇者たちを探す障害になるならって感じで」


 魔王は二の次。

 最優先はクラスメイトの安否だ。


「人探しのついでで、邪魔になりそうなら魔王を倒そうって考えちゃうのヤバいね」


「仲間想いのユーマらしいにゃ」


「私はそれが良いと思います」


「どのみちアルメリアがユーマについていくって決心したんだ。僕らは目的が何であれ、それに同行するよ」


「みんな、ありがとう」


 聖女候補や、それ以外にもこんな美少女たちを危険な旅に同行させるなんて俺の責任は非常に重い。でも彼女らは絶対に守る。俺にはその力があるはず。


 緊張するけど、同じくらいワクワクしてる。


 異世界転移を全力で満喫してる気がした。



 クラスメイトの諸君! 今みんながどんな状況なのか分かってないけど……。今度は俺がみんなを迎えに行くよ。だから少し待っててね!







【お知らせ】


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

第1章はこれで完結です。


他作品の書籍化作業やプライベートのあれこれで忙しく、続きを書けない状況ですので、一旦作品を完結設定にさせていただきます。


ご愛読いただき、誠にありがとうございました。

更新再開の際には、どうぞよろしくお願い致します。


ではでは~。

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スキル【特許権】で高位魔法や便利魔法を独占! ~俺の考案した魔法を使いたいなら、特許使用料をステータスポイントでお支払いください~ 木塚 麻耶 @kizuka-maya

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