第47話 守護天使

 

「あ、アルメリアが聖女?」


 俺のクラスメイトにも戦闘職が聖女になった女子がいる。この世界にも聖女がいるってのは古城にあった本で読んだから知ってたけど……。


 なんで魔法学園に来てるんだ?


「ちなみにニーナもアルメリアの護衛だよ」


「じゃあ、彼女も天使なの?」


「ううん。あの子は普通の獣人族。魔法で戦っても強いし、仮に魔法が使えなくなった時でも彼女は素の戦闘力が優れてるから護衛に抜擢された」


 へー。

 やっぱり獣人族って強いんだ。


「聖女って、聖都にいるもんかと思ってた」


「現役の聖女は今も聖都にいて、この世界のために祈りを捧げてくれてるよ。アルメリアは新魔法を修得して、次期聖女になる可能性を少しでも上げるためにこの学園へ来たんだ」


「フリストは天使なんでしょ? まだ聖女候補なのに、護衛に天使がつくの?」


「天使っていっても一番下っ端だから。他の聖女候補はふたりいるんだけど、彼女らにも護衛の天使がついてる。で、護衛した聖女候補が聖女になったら、その天使の格が上げてもらえる。だから僕はアルメリアを聖女にしてあげたい。そのためなら」


 フリストにベッドへ押し倒された。


「お、おい! なにして──」


「アルメリアを聖女にするためなら、僕は何でもするよ」


 顔が近い。

 綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。


「ユーマが望むことは何でもしてあげる。だからお願い。僕らに力を貸して」


「わ、分かった。協力する! 俺ができることはやってあげる! だから、ちょっと離れて!!」


 そう言ってフリストの肩を押して身体を離れさせた。


 童貞には刺激が強すぎる。

 いきなり襲われるのは無理です。


 もっとこう、手を繋ぐくらいからスタートしましょう。


 ぐいぐい来てくれる年上女子に憧れもあった。だけどいざ押し倒されると、こんなにも困惑するとは思わなかった。



『祐真様。この堕天使、消しておきませんか? 下級天使程度、詠唱破棄の天地晦冥で跡形無く消滅させられます』


 相変わらずアイリスは物騒な提案をしてくる。


「怖いね。かなり進化した【ガイドライン】だ」


「えっ」


 俺の脳内でしか聞こえていないはずのアイリスの声にフリストが反応した。


「僕は天使だからね。このぐらいの距離にいれば、ユーマの中にあるガイドラインの声も聞こえちゃう」


「マジかよ」


『ますます危険ですね』


「僕としては君に敵視してほしくないな」


『祐真様を誑かそうとする存在を見過ごすわけにはいきません!』


「実は君にも良い提案がある。僕は下級とはいえ天使だ。すごい魔法が使えちゃうユーマでも出来ないことを、僕ならできたりする。例えば──」


 なにか良く分からない言語でフリストが話し始めた。

 

『な、なるほど……。悪くない提案です』


 俺には全く分からなかったが、アイリスには理解できたみたい。


「どうかな。僕と手を組まない?」


『良いでしょう。ただし、貴女が先ほどの約束を果たすまで祐真様に手を出さないと誓ってください』


「わかった。あ、でも僕からは手を出さないってことで良い? ユーマが望むなら、僕はそれを拒まないよ」


『……仕方ありませんね』


 なんだか良く分からないうちに、ふたりの間で約束が取り交わされたらしい。



「それじゃ、寝よーか」


 俺のベッドに横たわるフリスト。


「ねぇ、なにしてんの?」


『いきなり誓いを破るつもりですか?』


 アイリスも怒ってるから、これは先ほど彼女らが結んだ約束とは関係なくフリストが独断でやってることなんだ。


「僕はユーマとの約束を果たそうとしてるだけだよ。新魔法を使えるようにしてくれたら、添い寝するって約束をね」


 あー、そうか。

 それでここに来たんだもんな。


「もしユーマが我慢できなくなったら僕を襲っても良いよ」


 そう言ってフリストがパジャマの一番上のボタンを外した。


『は、話しが違います!』


「僕はユーマに手を出さないって約束は守る。でもユーマが我慢できるかどうかは、僕の責任じゃないでしょ」


 ベッドに寝転がり、両手を広げて俺を呼びこむ。


「ユーマ、おいでよ。ただ添い寝するだけだから」


『祐真様。今すぐこの堕天使を部屋から追い出してください!』


 ぐいぐい来られるとひいちゃう。

 でも、「おいでよ」はヤバいな。


『祐真様!? 祐真さまぁああ!!』


 俺はフリストの誘いを断れなかった。

 両手を広げて待っている彼女の腕の中へ。

 

 ふんわりと柔らかい、良い匂いがした。

 

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