第41話 久保

 久保は中学の同級生だ。


 俺とは違ってイケメンで勉強も出来た。性格も良く、誰からも好かれる男だった。


 所謂、人気者ってやつだ。


 ここまでだと死ぬ死ぬマンとは相容れない男のようだが、意外と俺は久保と仲が良かった。


 それはお互い母子家庭でだったことが影響している。


 中学生の頃、俺は父親が病気で亡くなり、一時期塞ぎ込んでいた。そんな時に声を掛けてくれたのが、久保だった。


 別に慰めるとか励ますとか、そんな関わり方ではなく、ただ自然に自分の境遇を話してくれた。


 あぁ。久保っていい奴なんだなぁと、俺は実感した。


 それからは中学生の間は二人でよく遊んだ。


 高校は別々だったが、家が近いこともあり、中学卒業後もちょくちょく会っていた。


 高校卒業のタイミングでは「早く稼げるようになって母親を楽にしたい」と言っていたから、探索者をしていることは納得だ。


 しかし何故、死ぬ死ぬマンのパーティーメンバーに? 新宿ダンジョンの十四階までソロで潜れる実力があるなら、かなり稼げる筈だが……。


 久保はずっと額を地面に付けたままだ。


 ヘイト上等でやっている俺だが、流石に無視は出来ない。


「久保、顔を上げろよ。何か事情があるんだろ? 話してくれ」


 ゆっくりと頭が地面から離れ、潤んだ瞳がこちらを向いた。


「僕は……新宿ダンジョンを攻略して……母さんを助けたいんだ……!」


「どうかしたのか?」


「母さんは……とても生存率の低い癌になってしまって……。僕は新宿ダンジョンを攻略して、母さんを健康な身体にしたい……。でも、一人ではもう限界で……」


 涙が溢れる。


「他のパーティーじゃ駄目なのか?」


「今、新宿ダンジョンを攻略する可能性が一番高いのは、八幡くん達、死ぬ死ぬマンチャンネルだと僕は思っている。視聴者を味方に出来る、八幡くんが最強の探索者なんだよ!」


 真っ直ぐな瞳が俺を射抜いた。



『久保君……めっちゃいい子やん……』

『まさか死ぬ死ぬマンチャンネルでこんなシーンをみるとは』

『もしかして俺達は、チャンネルを間違えている?』

『グミは人間になる為に新宿ダンジョン攻略』

『久保君は母親を救う為に新宿ダンジョン攻略』

『タケシは童貞を捨てる為に新宿ダンジョン攻略』

『死ぬ死ぬマンだけ動機が不純過ぎるwwww』

『久保君、死ぬ死ぬチャンネルに加わる実力はあるの?』

『実力もそうだけど、視聴者を集める能力が必要』

『死ぬ死ぬマンチャンネルにシリアスいる?』

『俺はいいと思うけどなぁ〜』

『タケシちゃん! 入れてあげなさいよ!』



 視聴者達からの反対は少ない。どちらかというと、肯定的な意見がほとんどだ。俺自身も、なんとかしてやりたい気持ちはある。


 しかし、チャンネルの方向性にあっているかと言われれば、悩む。


 もし久保が「現代の医療では完治しない痔に悩んでいて、新宿ダンジョンを攻略してなんとかしたい!」と言ったなら、大歓迎だった。


 痔に悩むイケメンなんてコンテンツ力抜群だ。


 しかし、久保はあくまで「母親を救う為」に死ぬ死ぬマンチャンネルへの加入を願っている。


 返答に困ってグミとマリナを見ると、二人とも神妙な顔をして黙ったままだ。


 仕方がない。こうしよう。


「チャンネル加入試験を行う! 明日、死ぬ死ぬマンチャンネルは十五階のボス戦に挑む。そこで久保が視聴者を納得させる活躍をしたら、加入を認めよう!」


 久保はザッと立ち上がり、ドローンカメラに向かって頭を下げる。


「分かりました! 明日、僕の力を見せます! 視聴者の皆様、よろしくお願いします!」


 全ては明日だ。 

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