第40話 童貞確定

『ドテカクマン! おはよう!!』

『ドテカクマン! ちぃーす!!』

『ドテカクマンの存在が救い。(30歳童貞)』

『ワイの味方はドテカクマンだけだわ』

『童貞確定で登録者一万人増えたのマジ草』

『タケシちゃん……可哀想……』



「勝手に改名しないで! 俺は死ぬ死ぬマンだから!!」



『いやいや。もうドテカクマンっしょ』

『Twittorのトレンドにドテカクマン入ってるよ?』

『ドテカクマンは一生俺達の味方』

『いやーマジで安心するわ〜』

『どんだけ可愛い子が側にいても嫉妬しなくて済む』

『タケシちゃん……泣かないでね……』



 童貞確定マン。略してドテカクマン。ガチャオーブで【女人禁制】のスキルを引いてしまってから、俺はドテカクマンと呼ばれている……。


 視聴者の奴等、本当に容赦がない。


「お前等! そんなにドテカクマンが好きなのか……!? ならば、グッズも買うよな……!?」


 グミとマリナが「ジャン!」とカメラの前に現れた。二人が着るオーバーサイズのTシャツには「ドテカクマン」の文字がプリントされている。


「俺が転んでタダで起きると思うなよ!! ただいまよりドテカクマンTシャツとドテカクマンキャップを販売します!! チャンネル概要欄に販売サイトのリンクを貼るので! お前ら絶対買えよ!!」


『買わねえよ!!』のコメントが溢れたが、販売サイトにはアクセスが集中している。コイツら、本当にツンデレだ。


「まぁ、俺が童貞なのも新宿ダンジョンを完全攻略するまでの間だ。俺は全ての願いを叶える……!」


「ウゥ、アァ!」

「流石、師匠!」


 力強く宣言すると、グミとマリナが囃し立てる。


「今日からダンジョン攻略を再開します! 新宿ダンジョン、待ってろよ!!」


 そう。俺は新宿ダンジョンを攻略するしかないのだ。



#



 新宿ダンジョン14階。オーガの現れるフロアだ。


 動きの速い鬼をHPの壁で受け止め跳ね返すと、マリナがすかさずダンジョンボール・レッドを投げつける。


「グアァァ……!?」


 効果覿面。顔を押さえて苦しむ。そこを──。


「ステータス・スワップ!」


 角野さんにより、攻撃力とHPの値を入れ替えた。攻撃力三万以上。金属バットが唸る。


 パァアァァァン!!


 オーガは体を爆散させ、魔石が残った。


 適正レベル30の新宿ダンジョン14階でレベル10の俺達が戦うには工夫が必要だ。


 スキルとアイテムを最大限に活用し、俺達はもうすぐ15階への転移部屋に辿り着くところだった。


"ウゥ……アアァァァァ……"

"師匠……なんかいます……"


 いる。確かにいる。転移部屋の前で土下座をする人間が。


"無視しよう"


"ウゥ"

"はい"


 三人でスタスタと人間の横を通り過ぎる。次はボス階だ。変な奴の相手をしている暇はない。


「八幡くん!!」


 八幡くん……。久しぶりに呼ばれたな。

 俺を苗字で呼ぶ奴は少ない。


 視聴者は死ぬ死ぬマンかドテカクマンだし、親はタケシ。グミやマリナは師匠と呼ぶ。八幡くんなんて呼ぶ奴は一人──。


「久保か」


 男はパッと顔を上げ、こちらを見据える。


 相変わらずイケメンだな。ただ、以前のようにツルンとした印象はない。瞳の奥に確固たる何かを感じる。


「八幡くん! 僕を、パーティーメンバーに加えてください!!」


 久保は勢いよく額を地面に付けた。

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