第24話 ドーピングダシブロス


 ミネラルゴーレムはドリルハンマーで掘削、破砕、粉砕! 

 すぐに次の魔獣がくる。


 ごおぉおおおおおおおううううと呼び寄せた魔獣が押し迫る。


 俺はハンマーとハチェットで魔獣を撃退!

 

 キンキンキンキンキンキンキンキンキン!


 魔獣の臓物が溢れ爆散!


 リビングハチェットガ縦横無尽に舞う!

 

 ひうんひうんひうんひうんひうんひうん


『けらけらけらけら!』


 ぶしゅゅううううううううう!


 ドリルハンマーがゴレームを掘削!


 ドリドリドリドリドリ!

 ドリドリドリドリドリ!

 ドリドリドリドリドリ!


 ゴーレムの岩の欠片が周囲に飛び散る。

 宙に浮かぶ画面には、コメントが乱舞する。



 縛られた、ちんぽ騎士団の絶叫がひびく。 


「脳波アプリは、レッドゾーンに突入してるわ!」


 騎士団の脳は、恐怖によって順調に破壊されている。


 だが絵面的には俺がそいつらを守っているのだ!




 スマホ画面を覗くと、コメントが流れてきた。


『おっさんだ』

『待ってた!』

『かっけー!』


『あれ、罪坂君じゃね?』

『罪坂君達を守るおっさん降臨』


『またおっさんだ!』

『リコだけでなく、罪坂君も守ってる?』


 罪坂を守っている絵面だが、実際俺が与えているのは恐怖だ。


『ギャァアァァァァアアアアアア!』

『アアアアァァァァアアアアア!!』

『ウアアアァァアアアアア!』

『エッッヒャアアアアアアアア』

『ヒッギゥィィィイィイイイイイひ!』


 5人のちんぽ騎士団はビビリ散らしている。

 そんなに俺が信用できないのかな?

 俺がやってるのは、お前らを魔獣から守るってことなのに。


 リコがアプリをみると、罪坂達の脳波は異常な数値を示していた。


「鬼神さん! このままじゃ脳が壊れちゃうよ」


 樹に縛られたまま魔獣に襲われる。

 食われる直前で、俺のリビングハチェットが魔獣を食いちぎり、血と臓物を吹き上げる。


 ちんぽ騎士団は失神を始めていた。


「なんだリコ。こいつらが心配なのか? お前を犯そうとした圧倒的外道だぞ?」

「……確かに、そうだけど」


「じゃあよぉ。裁量はお前が決めろ」

「え?」


「お前は俺と違って、悪い奴じゃない。今すぐやめろっていうならやめるさ。もっとも、こいつらの命を救っているのも俺なんだがな」


 リコは困惑した。

 やはり甘い女なのだろう。


「別にお前のせいにするってわけじゃないんだがな。やってるのは俺だし……」

「いえ。やります。私が背負います。罪坂達は解放しません」


「お前……」


「これから社会に追求されても、私が鬼神さんに頼んだってことにする! あなたが私のために手を下してくれるなら、その責任は私にある」


 この女、甘い女だと思ったが。

 中々、肝が据わっている。


「それで鬼神さん。この脳波アプリは……?」

「レッドからブラックになると脳が破壊されている。まだ完全には破壊されていないようだな」


 アプリのグラフをみると罪坂達騎士団の脳は、レッドが四人、罪坂だけがオレンジだった。


「完全に脳を破壊するかはリコ。お前次第だ」


「反吐がでる邪悪がいるんだって、わかりました。人間が性善説か性悪説かの論争があるけど……。ごく稀に、事故のように、救いようのない悪が生まれてくる」


 リコは悲痛な顔で思案する。


「罪坂の言動を思いだすと、いままで被害にあった人はたくさんいるはず。声をあげられずに、苦しめられてきた人がたくさんいた。

 被害に合った方が、脳を破壊されPTSDになっているというなら、今まで苦しめられた人と同じ報いを受けるべきだ!」


「……つまり、こいつらの脳を完全に破壊していいんだな?」


「滅してあげるのが、被害に合った皆のため。でも殺しはしない。傷もつけない。社会的な抹殺こそが最善だと思う」


「わかったよ」


 リコは決断し、俺はそれに乗った。

 罪坂達の身体には傷ひとつつけない。


 だが抵抗できないまま目の前で、迷宮魔獣が襲い来るならば、どんどん恐怖で脳は破壊されていくだろう。


「もが、はぁ……」


 騎士団四人の脳がレッドからブラックになり失神した。

 いかに俺に守られていようと、巨大生物に迫られる恐怖、俺が魔獣を殺した時に飛び散る臓物のグロさには勝てないのだ。


 だが罪坂だけはオレンジのままだった。


(俺様のメンタルが弱いとでも思ってるのか? 縛りが解けたらお前らを殺してやる)


 俺はそんな罪坂の心中を読んでいる。


(こいつ。俺が殺さないと思って、舐め始めたな。眼をみればわかる。だが拷問をするのも負けた気分だ)


 配信では『俺が罪坂を守る』という構図になっている。

 この構図は崩してはいけないし、俺が悪者になってもいけないだろう。



 なので俺は、迷宮魔獣を刈り尽くした後、罪坂を解放することにした。


 笛の効果がキレて、迷宮魔獣の軍勢が途切れる。

 サーモンウルフの死骸や、バラバラになったビタミンゴーレムが散乱していた。

 

 俺は罪坂のロープを解いてやる。

 残りの4人はすでに脳が破壊されているので再起不能だった。


 罪坂が立ち上がる。


「てめえ。よくやってくれたな? この代償は支払わせて貰うぜ! 俺のバックにはヤクザ〈鰐太刀組〉がいるんだ!」


 俺の胸ではメルルが〈眼〉になって見ている。

 配信の撮影をしているのだ。


 妖精の眼はアプリとリンクしているが、罪坂は配信されていることに気づいていない。

 

「もし俺を殺したとしても、鰐太刀組が黙っちゃいねえ。今回は負けたが、絶対におまえは、バッッッッコロス!」


「その根性をもっと別のものに役立てればよかったのにな」

「いまから俺に屈辱を食わせたお前を、後悔させてやる!」


 罪坂は懐から黒い粉を取り出した。

 俺のスマホにはぴろんと、コメントが流れる。



『え、罪坂君、ヤクザとつながりがあるの?』

『嘘乙』

『本人が暴露してただろ!』

『じゃあおっさんはいい人なのに?』

『罪坂君はおっさんに仇を返えそうとしている?』


 なんどもいうが、カメラはメルルの眼だ。

 俺のスマホはカメラを向けていないので、撮影バレはしていないのだ。


 罪坂は配信されていることに気づいていない。


「この黒い粉は違法薬物。ドーピングダシブロスだ! すくすく巨大に成長してやる!」


 あーあ。ゲロっちまった。

 だから言ったのに。

 俺の女に手を出すなってな。


 そして黒い粉〈ドーピングダシブロス〉を飲んだ罪坂は、すくすくと巨大化を開始。異形の肉体へと変貌をはじめたのだった。









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