第25話 リコの笑顔

 

「まだ奥の手があんだよ。ドーピング・ダシブロスだ!」


 罪坂は取り出した黒い粉を一息に飲み干した。


「鬼神ぃ……。俺を拷問せずにぬるいフカシをしたのがてめーの敗因だぜ!」


 ばきばきばきばきとホストめいた肉体が肥大化!


「〈ドーピング・ダシブロス〉はマナの吸収率を倍加させる! てめーがいくら強かろうと技巧派だろうと、圧倒的な筋肉の前には叶わねーよなぁ!」


 罪坂の肉体が肥大化していく。

 身長3メートルにまで巨大化し、隆々とした肉体となったのだ。


「うおおおおおぁあああ。ごおおぉおおおおおおぁぁあ!」

 

 罪坂蛮は身長3メートルまでに巨大化し、肉体を緑褐色に変貌させる。


 命を間借りするヤクブツなのだろうか?


「鬼神ぃ。こいつはヒューマンオークだよ」

「ヒューマンオークだぁ?」


 メルルが説明をしてくれた。


「ドーピングした成れの果てだよ」

「いちおう、人間か?」


「人間とオークの狭間だよ」

「いやな狭間だな」


 罪坂は黒いヤクブツ〈ドーピング・ダシブロス〉の摂取により、ヒューマンオークと成り果ててしまったという。

 その思い切りの良さは別のところで生かせたら良かったのにな。


「あー。しっかし。違法ヤクブツかよ。これでもう情状酌量の余地無しだな」


 俺はリコをみやる。


「で。リコ、どうする? ぶち殺すのは簡単だが」

「できるだけ殺さないでください。こいつの最大の責め苦は死なんかじゃない」

「だよなぁ。俺もそう思うし。ぶち殺したら俺もなんかこう。やばいだろうし。じゃあまあ、いっちょがんばるか」


 俺はリビングハチェットもドリルハンマーも脇に置く。

 徒手空拳で構えた。


 ヒューマンオークと化した罪坂が、ぎょろりと目を見開く!


「テメエ……。舐めてんのかァ?! この〈ドーピング・ダシブロス〉は、俺の筋力を3倍にした……。まずはリコからだ。おっさんを殺して曇らせてから……。30センチになったイチモツで、てめえを貫く!」


 幅30センチほどに肥大した巨大な腕が、リコに振り下ろされる。

 俺は割り込み、片腕で受け止めた。


「ナン?」

「3倍がなんだってんだよ。俺はもう何ヶ月もこの迷宮に挑戦してきた」


「人間ノ腕デ、何故、ウケトメラレル!?」

「何度も死ぬ思いをしてよぉ。身体能力倍加だぁ? 血反吐吐きまくって度重なる修行を重ねればよぉ。倍加して当然なんだよ!」


「片腕で……。まさかテメェも、マナで倍加したのか?」

「倍加どころじゃねえ」


 俺はヒューマンオークとなった罪坂の腕を掴み背負い投げをする。


「グアアァァアアアアアア?!」

「身体強化を使った俺の膂力は、40倍だ」


「ア、ありえない。そんな桁違いの倍率で、人の形を保っているなど……」

「ああ。始めは苦労したよ。倍加したパワーで怪我をしまくりだった」


 立ち上がるヒューマンオークに裏拳で拳を見舞う。


 パンパンパンパンパン、パンパン!


「ガハッ、グフッ、アバァッ」

「簡単な話だよ。倍加したパワーで自分が怪我をするなら、怪我をしないようにさらに鍛えれば良い」


「ば、か、な?」

「もっとも100%の力なんか出さないがな」


 俺は30%の力で、巨大化した罪坂へ裏拳を連打。


 パアアァァアアン!

 クリティカルヒットした裏拳で、肥大化した罪坂を吹き飛ばす。


「ガアアアアアアア!?」

「修行の成果だ。おっさんを舐めるなよ」


 バギバギバギン! と樹木の枝を折りながら、ヒューマンオーク罪坂はふきとんでいく。


 やがて崖の壁面に叩きつけられると、薬が斬れたのか、もとの小さい姿に戻った。


「ふぅ。リコは守ったぜ!」


 ここで配信を切った。


 コメントは暖かかった。


『結局、おっさんはリコを守ってたの?』

『でも罪坂君も守ってたよね、おっさん』


『おっさん帰れよ』

『いや、おっさんはいい人。罪坂チャンネルさえも救おうとした』


『罪坂君が、あんなになるなんて嘘でしょ?』

『コラ乙』

『鰐太刀組ヤクザってマジ?』

『おっさんが?』

『ちゃんと文脈嫁。罪坂がヤクザ』


『でもおっさんはいい人なんじゃないの?』

『罪坂より、リコちん』


『罪坂に犯されました。真相をお話しします』

『私も犯されました』


『リコリコは被害者!』

『悲報。有名配信者レイプ疑惑! URLはこちら』


 荒れに荒れていたが、まあ仕方ない。コメントが来るのも養分だしな。

 リコを救出できたからよしとしよう。


「さて。アリバイ工作の配信だったが。っておい。メルル。お前なにしてんだ?」

「バッコロ動画を切り抜いたんだよ」


 妖精メルルはアプリの機能を使えるらしい。

 カメラになるばかりか、勝手に動画を作ってアップしていたようだ。


「なに勝手にやってんだよ。まあ、いいけどよ」

「だって面白かったからさぁ!」


 メルルの動画編集によって、罪坂の「お前をバッッッコロス!!」のシーンだけが切り取られて拡散されていた。

 コメントも荒れに荒れていた。


 様子をみてリコがぷふっっと吹き出す。


「あっは。あははっ! あはははっっっ。私を虐めてたのに。一瞬でネットのおもちゃになっちゃったぁ。あーすっきりした!」

「急に元気になるとか。お前は大丈夫なのかよ。ひでーことされたんだろ?」


「へへ……。ちょっとピンチだった。でもね」

「なんだ?」

「やっぱり助けに来てくれた!」


 リコが俺に抱きついてくる。

 柔らかくてい、いい匂いが脳を揺さぶる。


「配信も終わったし。誰も、みてないよ?」

「うぜーのがいるがな」


 俺とリコの周囲をメルルが旋回していた。


「鬼神スケベ! 鬼神エッチ! ふにゅ! 離せ! ああ、じゃまはしませんよぅ。ちょっとドスケベの解説をするだけで。ふにゅう!」


 くそ。こいつのおかげでリコといちゃれない。

 だが、こいつのおかげでリコのもとにたどり着けたのも事実だ。


「あーもう」

「鬼神さん。何より嬉しかったことがあるの」


「ぁんだよ?」

「『俺の女』って言ってくれたでしょ。嬉しかった」


 俺はきっと、年甲斐もなく頬を赤らめていたことだろう。

 けれどもうおじさんだ。


 ぶっきらぼうに手を引くことしかできない。


「行こうぜ」

「うん♡」

「僕も~♪」


 迷宮での一件を解決し、俺たちは家に帰るのだった。



――――――――――――――――――――――――――

大事なお願い


三章終了です♪


ここまでで、もしこの作品を気に入って頂けたら、☆1でいいので☆☆☆評価&♡&コメント&レビューなど宜しくお願いします! 

https://kakuyomu.jp/works/16817330656681666194



異世界迷宮で【リミットオーバー〈上限値解放〉】が覚醒した俺は、迷宮、現実世界、異世界までも無双する。~リミットオーバー・ダイヤモンドハート~【旧題:俺だけリミットオーバーな件】の方も宜しくお願いします!https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828

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