第19話 捕縛と拷問


「ふえ、ふえぇ、うぐ、あ、うえぇぇ……」

「うーし、リコゲットぉ!」


 罪坂蛮はリコの髪を掴み、持ち上げていた。リコが洞穴から出てきたところをめざとく見つけ捕縛したのだ。


「あんた達、卑怯すぎるわよ! 乙女が、その……。できないの知ってて!」

「〈放尿待ち作戦〉を聞いてたのか? 耳のいい女だ」


「し、縛らないでよ。せめて茂みに隠れさせて……」

「ダメだ。てめーはまた逃げるだろうが」


 罪坂に慈悲はない。慈悲の感情が生まれつき喪失しているのだ。


「ここでおもちゃになって貰う。それ以外の選択肢はねえよ。ああ、泣きながらワンって言ったら許してやるかも~。けひゃひゃ!」


 罪坂は武器のスティレット(大刃短剣)を取り出し、ぺろりと舐める。

 騎士団の仲間達がロープを取り出し、リコを縛った。


「さて。拷問の時間だな」


 罪坂はスティレットでリコの服を縦に裂いた。下着が裂かれた服から垣間見え、豊かな胸が露わになる。


「やめ……や、やめてよ!」

「こいつ、どもってやんの!」


 仲間のひとりが囃し立てる。狂乱は加速していく。

 罪坂の眼が冷酷に、細くなる。


「持ってねーのか?」

「え?」


「山羊鬼を倒したんだったらよぉ。あのボスの持ってるドロップアイテム。〈ユユニ水晶宝珠〉をゲットしたんだろ……?」

「……知らない。うぐ!」


 腹を蹴られた。お腹がきゅうと苦しくなる。


「うぅ……ううぅ」


 身体をまさぐられる。服を剥ぎ取られ、下着姿になってしまった。


「どこにも持ってねえなあ」

「持ってたってあんた達にはあげないもん! あれは山羊鬼を倒した鬼神さんのものなんだから!」


「鬼神……。やけに大仰な名前だが、あのおっさんか。……動画はみたぜ。確かにバカ強く見えた。だがよぉ! あんなんペテンに決まってる。チートかなんかを使ったんだろう」


「違う……! 鬼神さんは苦労してた。努力をして報われなくて……。それでもこの迷宮に挑んでいた人なの」


「おっさんの肩を持つんじゃねえよ!」

「ぐぅ……う、えぐ……」


 肩を蹴られた。今度は脱臼したかも知れない。


「わかった。よーくわかったよ。終わったらアリバイ工作すっからよぉ」

『あれをやるんですか? 罪坂さん?』


 イエスマンの騎士団が罪坂に追従する。


「ああ。もうしばらくすれば。迷宮魔獣とエンカウントするだろ? リコをそいつから守ってるところ配信する。そうすりゃあ俺らの株は安泰だ」


 騎士団達はにやにやとほくそ笑む。


『あれっすよね? トゥイッターでバズ確定の定番ベタ。【ナンパされ絡まれた女の子を助けるために、横から颯爽と登場。男を追い払って好感度アップ】ってやつ!』

『俺らがよくやるあの手口っすね』

『万バズ確定じゃないっすか!』


 こうしたマッチポンプは、罪坂達騎士団の定番の手法だった。


 ひとりがナンパ男役を行い、罪坂が颯爽と現れ助ける係になる。

 ナンパ男役はその場では追い払われるが、実はすべてがグルである。


 颯爽と現れる罪坂はしおらしい態度で「連絡先教えてよ」と女性に取り入る。『感じのいいイケメンなら』と、女性は心を開き連絡先を教えてしまう。

 地獄の始まりだとも知らずに……。


 さらに罪坂の計画は先がある。


「こいつを助けにおっさんが来るかもしれねえが。おっさんがいくら強くても、俺らが配信してりゃあ勝ちは確定よ。『リコをおっさんから守るイケメンの俺ら』っていう絵面をつくんだよ。実際に犯してるのは俺らで助けに来たのがおっさんでもな」

『ぱねーっすよ罪坂さん!』


 騎士団に止める者はいない。


「嘘をつきまくっても画面の向こうに発信しつづければ、嘘はやがて本当になるからな笑」

「さすがは罪坂さん!」


 リコはあまりの極悪に、ため息しかでなかった。


「あんたらは、本物のクズ。いや。クズ以下。ケダモノだわ」

「だまされる奴が悪いんだよ。それにわっかりやすい善人の皮ほど、SNSでバズれるもんはないからな」


「……あんたのことはちょっといいって思ってた。でも眠剤計画が私に聞かれたのが、運の尽きだったね」

「リコ。お前は俺を見抜いてくるのが気にくわねえな。本当勘のいいメスガキは嫌いだぜ」


「あんたを護衛に雇ったのはマネージャーに勧められたからだけど……。まさか!」


 リコははたと気づいてしまう。


「……もしかして、マネージャーともグルだったの?」

「ああ、そうだよ。あいつもお前のことをモノにしたいと思っていたんだ」


「嘘……」

「このご時世に身体を使わないとか、世渡り下手すぎだっつうの。清純なのはイメージだけありゃあいいのよ」


「私は、裏切られて。売られたの?」

「ああ。あのマネージャーは、お前が俺に手込めにされることを望んでいたぜ。まぁこれでわかったろ? お前に味方なんていねーんだよ。味方になってほしけりゃ、枕もこなせって話だよな。枕をこなせねえようじゃあ、カスと一緒なんだっつーの」


「私に味方が……」

「はじめっからいねーっつーの!」

「ぐぅ……」


 腹を蹴られ、リコの眼から光が失われていく。

 マネージャーまでもが今回の出来事にグルだった。

 罪坂に精神的に追い詰められ、心が壊れかけていた。


「うーし。レイプ眼確定。仕上がってきたな。あとは樹に括り付けて。拷問の時間だ! ひゃは!」


 リコは服が破れた姿のまま、蔦を身体に巻き付けられる。両腕をあげたあられもない格好で、樹に縛られた。


「どうして? どうしてこんなひどいことを……?」


「決まってんじゃん。楽しいからだよ。おとなしいバカを出し抜いて、好き放題やるんだよ。配信で善人ぶればどいつもこいつもダマされる。皆が俺をいい人だって持ち上げてくれれば、裏で好き放題やってても関係ない。こんなに楽しいことはないぜ」

『罪坂さんのいうとおりだぜ』


「いやマジでたーのし! ぎゃはは。はぁ。アリバイ工作もできたわけだし、そろそろ犯すか。犯した後は服を着せて、お前の『騎士団』を演じてやるよ。まあ全部、俺たちのネット上の印象のためなんだがな」


 ゲラゲラゲラと笑い声がリコを包んだ。

 人種が違いすぎる。リコは汚物に囲まれたような最悪な気分になっていた。





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