【悲報】バズれない迷宮配信者さん、裏ボス遭遇で死亡確定の超美少女インフルエンサーを華麗に救出、ＳＳＳＳおじさんに成り上がってしまう。

第4話 インフルエンサーアイドルを華麗に救出、鬼バズしてしまう

　山羊頭の巨人は、この〈果なる水晶の迷宮〉の、最深部のボスなのだろう。

　筋骨隆々とした肉体は推定身長５メートル。

　手に持つ武器は、人の身長ほど（１メートル５０センチ超）の長さの斧だった。

『ガアァァァアアア！』

　山羊頭の巨人が咆哮し、斧を振るう。

　パーティのリーダー的存在が叫ぶ。

『全員、盾だ！』

　統率された動きで鎧を纏った騎士クラス５人が盾を構える。

　だが無駄だった。

　盾ごと切り裂かれ、騎士パーティの前衛５人が無惨に吹き飛ばされてしまう。

『ぐああああ！』『ぎゃああああ！』

『あ、が、はあああっ！』『ゲッハア！』『ゴハァ！』

　盾を構えていた騎士装備の探索者が、武装をバラバラにされつつ、風圧で吹き飛ばされていく。

　斧の一撃の風圧だけで、５人が宙を舞い、断末魔を上げた。

「女の子は？」

　俺は輝竜リコらしきローブの女の子を探す。

　斧の風圧だけで吹き飛ばされ石壁に叩きつけられていたが、息はあるようだ。

「すげえ風圧だ。メルル。あのボスは？」

　旧式ＡＩの白樺メルルが俺の横にホログラムを表示する。

　敵の名前表示くらいがんばってくれよ。

『あれは山羊鬼です』

　山羊鬼というボスらしい。

『宝ヲ狙ウニンゲンハ、ザンサツ。ニンゲンハ、ザン……』

　しかも山羊鬼は、殺戮衝動に突き動かされているようだ。

　俺は三脚を出し、配信カメラを設置。

　石壁に立てかける。

　山羊鬼と戦闘するためだ。

「やべえボスがいました。山羊頭でムキムキで、人体みたいなでかい斧持ってます。倒せるかわかりませんが、狩ってみまーす！」

　視聴者は増えないが、探索してきた迷宮深層のボスが目の前にいる。

　それだけで、俺は十分だった。

「きゃあああああ！」

　みやると斧の風圧は、竜巻になっていた。

　ローブの女の子（まだ輝竜リコかは確定していない）は、竜巻に吹き上げられ、上空を舞ってしまう。

　さらに女の子は配信をしていたらしい。

　配信カメラごと吹き飛ばされ、スカートを翻しながら飛ばされていた。

　結構な高さだ。落ちれば大怪我は確実だろう。

「空から女の子っていっても、これはきついだろ」

　俺は駆けだした。

　このとき俺の知らないところで、コメントが流れていた。

『女の子登場！』

　女の子（輝竜リコ？）を助けるのに必死で、コメントなど知る由もない。

　俺は駆け出し、女の子の落下地点へと潜り込む。

　ただの肉体なら女の子キャッチなんて無理だろう。

　ましてや３４歳。しがないおじさんだ。

　だが迷宮内ではマナが使える。

　マナの力を受ければ〈肉体強化〉や〈魔力〉を得ることができる。

「加速（ヘイスト）。強化（エクステンド）」

　加速と肉体強化を用いて、女の子の落ちる方角へと走った。

　このときの俺は１００メートル２秒、走り幅飛び１０メートルの膂力を得ている。

「動体視力強化（アイサイト）、空間認識強化（リコグニション）」

　さらに五感をも強化。

　超加速する肉体に、脳の認識を合わせたのだ。

「うおおぉおおおおおおぉお！」

　スカートが翻る布のゆらめきまでスローモーションでみえる。

　俺は跳躍し、腕を伸ばす。

　女の子の膝を、両腕でふわりと受け止めた。

　お姫様抱っこしつつ、強化した脚力で着地完了。

「大丈夫か？」

「う、ううう……。他の人達は？」

「今は自分の身の安全を心配しろ。……ん？」

　やはり女の子の顔には見覚えがあった。

　切れ長の瞳に、左目の泣きぼくろ。

　ピンクアッシュにウェーブのかかった綺麗な髪……。

　ローブを纏っているので印象が変わっているが、間違いない。

　有名な迷宮配信者かつ今話題のアイドルインフルエンサー声優……。

　輝竜リコだ。

（やはり輝竜リコ……本物か？）

　俺の思考を遮るように、山羊鬼が『ゴオォオオオオ！』と咆哮した。

「……さがっていろ」

　俺は鉈と金槌を取り出す。

「そんな装備で、大丈夫なんですか？」

「大丈夫だ、問題ない」

　彼女に構っている場合ではない。戦闘が最優先だ。

　このとき俺は当然のことだが、コメントが流れていることに気づかなかった。

『あれ？　輝竜リコじゃね』

『嘘乙』

『他人の空似』

　俺の知らぬところでチャット欄のコメントが増えていたらしい。

　コメントはぽつぽつと増えていく。

『リコドラチャンネル切れたから、リコリコの公開位置情報で検索かけたらこの動画がヒットしたわ』

『リコドラチャンネル切れた。パーティ全滅死亡説だったけど』

『公開位置情報から検索かけました。リコちん生きてる？』

　迷宮では緊急避難のことも考えて、公開位置情報をチャンネルに表示することができるのだ。

　位置情報検索で俺の動画がヒットしたようだが、もちろん俺は戦闘中なので、知るのは後になってからである。

『つか誰、このおっさん』

『イケメン』

『ぶっさ』

『フツメン』

『塩顔メン』

　そんなことはいざしらず、俺は山羊鬼と対峙する。

　山羊鬼が斧を構えて迫る。

　俺は腰からハンマー（金槌）とハチェット（鉈）に、マナを充填。

『オマ、オマ、エハ……。ガアアァ！！』

　山羊鬼が何かに気づいた。

　俺のマナを感知したのだろう。

　山羊鬼は二本目の斧を取り出し、二刀流となる。

　人間の身長ほどのリーチの斧が、二刀流で二倍の攻撃力となった。

　いままでは本気じゃなかったのか……。

　だが俺のやることは変わらない。

「悪く思うなよ。この迷宮は、どのみち踏破する予定だったんだ」

　マナ・プールの魔力を受けて、俺の左腕の鉈と、右手の金槌が〈戦闘態勢〉となりぐんぐんと成長を始めた。

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【鬼神透龍のとーるチャンネル】

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