任意同行

 真森には感じていた。村岡が犯人ではないと・・・。その時、荒木警部と佐川が2人を見つけて走ってきた。


「村岡良造だな。事件の捜査のため湖上署まで同行してもらう。」


 荒木警部が村岡に向かって言うと、真森がかばうようにその前に出た。


「警部。村岡さんは犯人ではありません! 絶対に! 村岡さんをここにいさせてあげてください。亡くなったご家族のために寒修行をしているのです。」

「とにかく事情を聞く必要がある。真森! そこをどけ!」

「いえ、どきません! 私が話を聞きました。それで十分なはずです。」


 真森は荒木警部をぐっとにらめつけるように見た。彼女は荒木警部に逆らってまでも村岡をここから離れさせたくなかった。だが村岡は背後からやさしく真森に言った。


「ありがとう。お嬢さん。でもいいのです。あなたのやさしい心だけで私はうれしいのです。」


 そう言われると真森は仕方なく彼の前からどいた。荒木警部が村岡に言った。


「この島の奥にドローンが発着した場所があった。それに本堂の横の部屋にパソコンや通信機器があった。どうしてこんなものがあるか、説明してもらいます。」


 佐川の手には押収したノートパソコンがあった。すると村岡はふっと息を吐いて琵琶湖の方を向いた。そこからはまだ霧のかかる湖が見渡せた。


「もう1か月前になります。神海さんという若い男の方が観光船でいらっしゃったのです。琵琶湖の生態の研究をしていて、ドローンやパソコンを置かせてほしいと。」


 村岡はそう言ったが、佐川は納得せずに村岡の腕を取った。


「わかりました。詳しくお話を聞きたいので同行して下さい。」

「はい。いっしょに行きましょう。」


 彼らはジープの方に向かった。その途中、真森が村岡に尋ねた。


「そういえばこの島に上陸された方がいたのですね。その方たちはどうしたのです?」

「タブレットの奪い合いをしていた。それでまた湖に出て行ってしまったよ。その中には滋賀水上交通の元社長もいたし、元船長もいた。」

「えっ! 橋本や吉村がいたのですか!」

「ああ、忘れようとしても忘れられない。だが彼らは私には気付かなかった。彼らにとってもう遠い過去のことなのかもしれない。今を生き残るためだと必死になっていた。」


 村岡は感情を押し殺して淡々と話していた。


「彼らの話からあの事故の関係者がここに集められて殺されていることを知った。だから私が犯人だと思われても仕方がない。一人でこんなところにいるのだから。」


 そう言いながら村岡は最後に当たりを見渡し、この島の光景を目に焼き付けるようにしてジープの後席に乗り込んだ。荒木警部と真森は村岡をはさむように座った。佐川は運転席に座って故国に向かってジープを走らせた。

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