多景島へ

村岡の居場所

 佐川は第53ひえい丸に中野警部補と藤井巡査長を残して、真森とともに湖国に戻ってきた。幸いにも水中ドローンに襲われることもなかった。


「青い点を示すタブレットを置いてきたから安心ですね。」

「だがそれも20時までだ。もしそれまでに犯人を上がられなければショットガンで撃退してもらうしかない。」


 佐川はそう言ったが、それは無理なのも分かっていた。水中ドローンはまだ数多くいる。いくら中野警部補でもすべてを撃破できるわけもない。


(県警本部が各方面に要請して応援を出してくれたらいいが・・・)


 だがそれも今となっては間に合わないかもしれない。

 

 ジープが湖国に戻ると佐川たちは報告のためにブリッジに行った。そこには荒木警部もいた。


「戻りました。第53ひえい丸は今のところ大丈夫です。」

「ご苦労だった。捜査1課の作戦が始まったところだ。容疑者逮捕に大勢の捜査員が動いているらしい。そんな状況だからこちらの行動は黙認しているらしい。こっちはこっちで救助を進めている。まだ15人といったところだが。」


 荒木警部がねぎらいの言葉と現状を教えてくれた。


「犯人がわかったのでしょうか?」


 佐川が尋ねた。彼にはそんな簡単に容疑者が絞れるように思えないのだ。


「いや、まだだ。だが4人が捜査線上に上がった。Rキット社の製品を送った上野順一。ゲームの参加者の多くに恨みを持つ村岡良造、水中ドローン開発者の神海渡。そしてテロ組織の堂島正子。射殺した堂島は関係ないようだから今は3人だ。」

「その3人はどこに?」

「多分、この琵琶湖のどこかにいる。多分、島だろうということになった。それで沖島と竹生島、そして多景島を徹底的に捜索するようだ。」


 荒木警部はそう言った。大雑把だが、時間がないのでそうするしかない・・・佐川にはそれは思った。だが狭い島とはいえ、それらの容疑者を発見してつかまえられるどうか・・・それが不安だった。

 すると通信が入ったようで、署員の一人が大橋署長に通信用紙を渡した。それを一目見て大橋署長はうなった。


「沖島と竹生島は無事に上陸して捜査を開始している。だが多景島は水中ドローンに妨害されて島に渡れなかったようだ。」

「竹生島に? 上野順一か村岡良造か神海渡のいずれかがいるのかもしれません・・・」


 荒木警部が言いかけた時、背後から、


「今、村岡良造さんと言いましたか?」


 と声をかけられた。振り返るとそこに宮本副長がいた。彼は動かなくなった機関を懸命に修理していた。今はコントロールパネルを調べるためにまたここに来たのだった。


「宮本君。何か知っているのかね?」


 大橋署長が振り返って尋ねた。


「ええ。署長も村岡のことはご存じでしょう。」

「ああ、定期船で父子が溺死した2年前の事故があり、その母親は自殺した。村岡はその母親の父だ。」

「村岡は私の古い友人なんです。あの事故があり、娘が自殺し、裁判も敗訴した。それで何もかもが嫌になったと言っていました。それで別のことをすると・・・。」


 それを聞いて荒木警部の目が光った。


「嫌になった? 別のこと? それでは村岡は復讐を?」


 荒木警部はそう思った。だが宮本副長は首を横に振った。


「いえ、娘夫婦と孫の菩提を弔うと言って、会社を人手に渡して出家したのです。」

「出家? どこにいるのです?」 

「ええ、見塔寺に身を寄せていると聞いています。」

「見塔寺! それでは多景島にいるのですか?」

「そこに籠って修行して、菩提を弔うと先日もらった手紙に書いていました。」


 宮本副長はそう言った。その言葉を聞いて佐川は荒木警部の顔を見た。


「警部!」

「ああ、そうだ。もし村岡が犯人だとしたら・・・」


 荒木警部がそう言いかけると宮本副長が、


「あの村岡がそんなことをするはずはありません!」


 と即座に否定した。宮本副長にしたら、昔からよく知っている友人がそんなことをするはずがないと・・・だがそれは私情が絡んでいると荒木警部は思った。


「多景島で村岡の身柄を押さえる必要がある。佐川。ジープで向かってくれ!」

「はい!」


 佐川は真森とともにブリッジを出て行った。その後姿を見ながら大橋署長が言った。


「荒木君。君は村岡が犯人だと思うのかね?」

「刑事である以上、あらゆる可能性を疑う必要があります。それが例え身内でも友人であっても。」


 荒木警部はきっぱりと言った。その様子を宮本副長は心配そうに見ていた。

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