沖島捜索

 沖島は近江八幡市から琵琶湖の沖合約1.5㎞に浮かぶ。周囲約6.8㎞、面積約1.53k㎡で琵琶湖最大の島で、約300人が居住する。小学校や郵便局はあるが、交番や駐在所はない。

 その島に連絡船やモーターボートをチャーターして、山上管理官は大勢の警官を率いて渡った。その多くは八幡署の署員である。多くの船が泊まる港から上陸すると、あまりの騒々しさに島の猫が逃げて行った。その先は民家が立ち並んで狭い路地が続く。それを通って奥津島神社に行きつく。

 警官は民家や神社を訪ね、島にいる者を職務質問した。また容疑者が隠れていないかを隅々まで捜索し始めた。

 その騒々しさに日頃、静かな環境で暮らしている島民は困惑した。


「船の出港は中止になるし、何が起こっているんじゃ?」

「危険人物がこの島に潜伏しているのかもしれないのです。」


 警官は3人の写真を示して尋ねた。だがその3人を知っていた者はいなかった。


「管理官。みつかりません。手がかりすらないです。」

「そんなことはない。この島は広い。隅から隅まで探すんだ!」


 山上管理官は竹生島の久保課長から連絡を受けていた。竹生島にはいなかったと。だから沖島に必ず容疑者がいると信じていた。


「そうだ。この島にはシスターワークス社の研究所があった。閉鎖されているがそこならパソコンや通信機器がある。そこに向かえ!」


 シスターワークス社の建物は町と反対側にある。そしてその間には木々の茂った山がある。


「捜査員はボートに乗って島に向こう側に回れ。残りの者は山狩りだ!」


 山上管理官の指示で捜査1課の捜査員がボートに乗って島にそって移動し始めた。だがあと少しで到着というところで悲劇が起こった。

 ボートに乗って見張りをしていた警官が遠くに盛り上がった波を見たのだ。


「水中ドローンと思われる波が接近しています!」


 その声にライフル銃を持った警官が3人、前に出た。銃を構えて狙い撃とうというのだ。だが、


「もう一つ、左から来ます!」

「右からもです!」


 捜査員が乗ったボートの一団は水中ドローンに囲まれてしまったのだ。警官はあわててライフル銃を撃つが、距離が遠すぎて効果がない。


「とにかく上陸しろ!」


 その指示でボートは島に向かった。だが敵に背後を見せた時ほど弱いことはない。後ろから接近されて水中銃を撃たれた。それで捜査員の何人かが倒れた。ライフル銃で応戦したが、あざ笑うかのように波は湖の中に消えていく。そしてすぐにボートの近くに姿を現した。


「うわっ!」


 捜査員の驚きの声が上がる。水中ドローンは体当たりでボートを次々に転覆させていく。湖に投げ出された捜査員は水中銃に撃たれていった。

 それはほんの短い時間だった。その間にボートはすべて転覆するか、損傷し、捜査員の半分は水中銃に撃たれて殺された。琵琶湖が赤く染まった・・・。


 その報告を受けて山上管理官は茫然とした。こんな悲惨なことになったとは・・・。だがすぐに気を取り直した。


「ここまでシスターワークスの研究所を守ろうとする。これはそこに犯人がいるからだ。その施設を利用しているのは神海渡に違いない。山からのルートからも警官を派遣して、島の向こうに渡った捜査員の残りと合流させろ! 一気呵成に研究所を押さえるんだ!」


 山上管理官は大声で指示を与えた。それでまたそばにいた捜査員が連絡に走った。


「犠牲は出したがこれで終わりだ! もうすぐ決着がつく!」


 山上管理官は「はあっ」と大きく息を吐いた。

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