作戦開始

竹生島上陸

 捜査1課は所轄署からも人を集めて準備を整えていた。沖島と竹生島、そして多景島に捜査員を上陸させてしらみつぶしに容疑者を捜索するのである。その作戦を前に山上管理官の機嫌は悪かった。


「湖上署め。命令違反をして動きよって!」


 これで貨物船の攻撃を始めるかもしれない。そうなれば核物質が沈み、琵琶湖が汚染される。だが貨物船に青い点を表示するタブレットを運んだから、20時までは時間が稼げる。

 だがそれはこちらが要求に屈しないことを犯人に伝えてしまったのと同じだった。かなり警戒しているかもしれないし、備えているかもしれない。一刻も早く作戦を実行する必要があった。


「管理官。湖上署からの報告では貨物船に堂島正子がもぐりこんでいました。彼女と男2人が拳銃で脅して船をジャックし、乗組員を船倉に閉じ込めていたそうです。湖上署の捜査員に向けて発砲してきたので射殺したとのことです。仲間の2人はボートで逃げる途中、水中ドローンにやられたようです。」

「うむ。やはり堂島正子が動いていたか。だが核物質を狙っていただけで、今回の事件の犯人ではないということか・・・」


 山上管理官は腕組みした。


「だとすると犯人は上野順一、村岡良造、神海渡の3人のうちの誰かというわけか。」

「各所の監視カメラの解析を行っていますが、今朝、上野順一と思われる男が琵琶湖の方に向かったようです。」


 堀野刑事の元には捜査員からの新しい報告が上がってきていた。


「村岡と神海はどうだ?」

「それはつかめておりません。」

「そうか。それなら現場で探すだけだ! いくぞ!」


 山上管理官の一声で会議室に詰めていた多くの捜査員が動き出した。いよいよ捜査1課の作戦が始まった。


 ◇


 捜査1課の作戦が開始された。まずは長浜港から多くの捜査員がチャーターした観光船とモーターボートに分乗して出発した。久保課長が指揮を執る一団である。観光船やモーターボートなら水中ドローンで襲われても逃げられると考えられた。だが危険も十分あるため、ライフル銃を扱える警察官を2名同行させた。


 目的地は竹生島である。琵琶湖の北側に浮かび、大きさは周囲2km、面積0.14平方km、切り立った岩壁に囲まれている。島全体が国の名勝・史跡に指定されており、ここには西国第三十番札所で日本三大弁才天の一つ「大弁才天」を安置する宝厳寺や都久夫須麻神社がある。今津港や長浜港や彦根港から観光船が出ており、多くの観光客が訪れており、昼間はにぎわっている。だが実はここは住む者のいない無人島だった。寺社関係者や売店の店員は毎日、船で通っているのだ。


 捜査員は竹生島港の船着き場から上陸した。久保課長が捜査員に声をかけた。


「さあ、行け! 怪しい者は引っ張ってこい!」


 捜査員は容疑者の写真を片手に、ここから逃すまいと一斉に石段を上って行った。その先は宝厳寺である。観光客は帰りの船が出ず、そこで足止めになっていた。


「警察です。身分を証明できるものを・・・」


 捜査員は一人一人チェックしていった。また別の班は建物をチェックして人が隠れていないか、パソコンなどが置かれていないかを調べた。

 しばらく時間が経ったが何も発見できない。ここには容疑者の姿もその手がかりすらなかった。


「ここは空振りか・・・」


 久保課長はそう呟いた。

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