容疑者確保へ

4人の容疑者

 八幡署に捜査1課の捜査本部が置かれ、本格的に動き出していた。湖上署からは様々な情報が送られてきた。その中には核物質を乗せた貨物船が水中ドローンに襲われて漂流しているという情報が入った。そして警察が琵琶湖で起こっていることに介入しない限り、水中ドローンを攻撃させることはないという通信も受信していた。


「どうするんだ。犯人のいうことを聞いてじっとしているしかないのか!」


 山上管理官が癇癪を起して机を「バーン!」と叩いた。


「管理官。落ち着いてください。湖上署が言うにはサバイバルゲームの参加者が持っていた青い点を表示するタブレットを持っていたら襲われないそうです。それを貨物船に届けるそうです。それで時間が稼げます。それまでに犯人を捕まえれば・・・」


 堀野刑事はそう説明したが、その言葉を山上管理官が遮った。


「犯人を捕まえられなかったらどうする? 琵琶湖は核物質で汚染される。そんな責任はとれん!」

「では犯人のいうとおりにするのですか! 琵琶湖にいる人を見殺しにするのですか!」


 堀野刑事は身を乗り出して声を上げた。山上管理官は何も言えなかったが、彼をにらみつけた。不穏な空気がその場に流れた。

 このままでは衝突するだけだと久保課長がなだめるように言った。


「まあまあ。ここで言い合いをしていても・・・。それよりも容疑者が絞れてきています。その居場所も限定できています。」

「そうだな。湖上署に一旦、手を引かせて犯人に従うように見せかけよう。そして準備ができ次第、一斉に容疑者、いや容疑者と思われる者をすべて、その身柄を押さえる。それで解決できる。」


 山上管理官はそのようにプランを練った。彼の頭の中ではかなりの確率で成功すると判断していた。


「それで容疑者は?」

「4人に絞れました。まずはRキット社の上野順一・・・」


 上野順一はRキット社の社員で水上サバイバルゲームのセットを企画した。そのセットをゲームの参加者に送った。3週間の有給休暇を取っており、その居場所も分からず、連絡が取れない。


「次に村岡良造・・・」


 村岡良造は琵琶湖の事故で娘夫婦と孫を失った。その船会社の社長と船長、そして見て見ぬふりをした乗客がサバイバルゲームに参加している。


「3人目は神海渡・・・」


 神海渡はシスターワークス社の社員。水中ドローンを開発者。会社の計画がとん挫して行方が分からなくなった。水中ドローンをよく知る。


「最後は堂島正子・・・」

 

 堂島正子はテロ組織「赤い悪魔」の幹部。滋賀県で目撃されている。組織が背景にあるため、このような大それた犯行には慣れている。また核物質を入手しようとしていたという報告もある。


 4人の写真がホワイトボードに張られ、情報が書き添えられている。


「この4人の行方が分からなくなっています。この中に犯人がいると思われます。」


 堀野刑事が報告した。山上管理官や久保課長、そして捜査1課の捜査員がじっとホワイトボードを見つめて考えている。しばらく会議室が静まり返った。


「このまま各自が考えていても進まない。ひとつひとつ検証していくしかない。」


 山上管理官がその静寂を破った。それを受けて堀野刑事が発言した。


「まずはRキット社のサバイバルゲームを参加者に送った件ですが、これは偽の指示メールが会社の配送所に送られたようです。また水中ドローンとタブレットをネットで結ぶことは詳しい者ならできるようです。それなら4人とも可能です。」


 そこからは犯人は絞れないか・・・山上管理官は思った。


「では動機からは?」

「村岡の動機が最も考えられます。サバイバルゲームの参加者もあの事故の関係者が多かった。元々は技術者で、ベンチャーで電子機器の会社を立ち上げています。」


 村岡でもできないことはないが・・・・可能性は否定できない、それに参加者はあの事件の関係者だけではないところが山上管理官に引っかかっていた。


「上野は多額の借金を抱えていたようです。もし金目当て、もしくは何者かに金で雇われたとしたら・・・これは動機になります。それに対して神海や堂島については動機については弱いと思われます。」


 だからと言って神海が容疑者から外れるわけではなかった。


「水中ドローンの運用がやはりキーとなる。それができるのは神海だけだろう。しかも盗み出すことがこの中では一番簡単だ。」

「はい。確かにそうですが、水中ドローンの運用ソフトを手に入れれば比較的簡単に操作できるようです。それは水中ドローンとともに盗まれています。それに我々が今まで捜査しましたが、盗難犯人の手がかりが見つかっておりません。神海以外でも可能性はあります。」


 水中ドローンの盗難については容疑者がまだ上がらず、ここからは絞り切れないと山上管理官は考えた。


「テロについてはどうだ? 犯人は琵琶湖を核物質で汚染すると脅してきた。」

「堂島には組織があります。すべてのことが可能と思われます。しかしこんな手が込んだやり方をするかどうかが疑問です。」


 確かに大量殺人が目的ならば考えられる。だが彼女の目的は貨物船を襲って核物質を盗むことだと思われる。これではあまりにも手間と時間がかかりすぎる、下手をすると組織から情報が洩れて実行する前に逮捕される可能性がある・・・山上管理官には堂島、いや赤い悪魔の犯行とも思えなかった。


「なるほど・・・決め手に欠けるな。」

「この4人に共通するのは現在の居場所がわからないことです。犯人は水中ドローンを操るために、琵琶湖のどこにいるはずです。」


 湖上署から、水中ドローンを操る電波は、到達距離から言って琵琶湖の上から出されていると報告を受けていた。


「だとすると島か! 琵琶湖には沖島、多景島、竹生島、沖の白石がある。しかし沖の白石は岩だけだから除外。だとすると沖島、竹生島、多景島か。」


 そこに捜査員を送り込んで捜査すれば必ず、人に紛れて犯人が潜んでいる。島の中だから捜索範囲は限られる。きっと見つけられる・・・山上管理官だけでなく、その場にいた捜査員全員はそう思った。


「よし、準備をしろ。沖島には私が、竹生島には久保長が指揮を執って捜索する。堀野は多景島に向かえ!所轄署も動員して多くのボートを用意。大型船もチャーターしろ! 水中ドローンに対策にライフルを携行する警官もつけろ。」


 こうして捜査1課の作戦は立った。後は実行するだけになった。

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