Rキット社

Rキット社の動揺

 Rキット社の大会議室では続々と重役が駆けつけていた。それを社長の青山平太郎がじっと見守っていた。休日の日曜日でもあり、急遽、招集をかけてもなかなか集まらないことに焦りを感じていた。もう呼び出してから1時間は経つ・・・。


「まだ集まらないが緊急会議を行います。」


 青山社長が椅子から立ち上がった。まだ40前の若い社長だった。先々代から細々とモデルガンの製造販売をしてきた老舗メーカーだったが、彼が社長の座を父親から譲り受けてからは商売の手を広げた。様々な製品を開発して世に出し、特にサバイバルゲーム関連のものに力を入れて、今ではトップシェアを誇るまでになった。

 だが昨今はサバイバルゲームのマナーの低下が叫ばれ、住民に迷惑をかける人たちが増えてきた。そのためメーカーであるRキット社がマスコミやSNSで非難されることが少なくなかった。そこで業界全体でマナーを改善しようとRキット社が業界の先頭に立って運動を始めたところだった。

 それが今日、許可が下りていない琵琶湖でサバイバルゲームが開催されており、それが周りに大きな迷惑をかけているという。それにあろうことか、無償で提供された自社の製品を使っているという・・・そんな話が警察から持ち込まれたのだ。


(我が社の誰かが提供したのかもしれない。宣伝のためか、モニターの調査のためかはわからないが。もしそうなら世間からわが社は強く非難されるだろう。真相を究明して、もしそうなら世間に謝罪しなければならない。)


 青山社長はそう思っていた。だが彼はサバイバルゲームの脱落者や一般の釣り人に、何者かの水中銃で死者が出ていることまでは知らされていなかった。

 一方、重役たちは訳が分からず、困惑していた。休日に重役全員を緊急に招集する事態のなるようなことについて思い浮かぶ者はいなかった。彼らは青山社長の緊張した顔つきでとんでもないことが起こったことは感じてはいたが・・・。

 青山社長は秘書に急ごしらえの資料を配布させた。


「今朝、滋賀県警湖上署から連絡がありました。琵琶湖でサバイバルゲームをしているという。これは迷惑行為に当たる。しかも彼らはわが社の製品一式を使っている。これは数日前にゲームの参加者に送られてきたものだということです。」


 青山社長は重役たちの顔を見渡した。だれもが少し驚いてはいるが、慌てている者はいない。この中でそのことを知っていた者はいないようだと彼は思った。


「モニターを使っての調査のためか、宣伝のためかはわからないが、そういったことを企画したものはいないか、知っていませんか?」


 青山社長は重役たちに聞いてみたが、彼らの誰もが首を横に振っている。


「ではわが社が関与したのではないというのですね。」


 青山社長が念を押すように言った。すると末席にいた広崎開発部長が手を上げた。


「開発部長、何か知っているのですか?」

「いえ、資料の提供されたこれらの製品を見て思いました。確かに水上でのサバイバルゲームを提案しようと、近々モニターを集めて調査しようと企画までしましたが・・・」

「なに! そんな話があったのですか!」

「はい。しかしそれはまだ部内での話でして・・・。」


 広崎部長の話ではまだ正式に決まった話ではないという。


「それがどうして琵琶湖にあるのです?」

「いえ、それが・・・その企画は主任の上野が責任者でして。それが2週間前から有給休暇を取っていまして・・・。」

「では彼を早く呼び出してください。詳しいことを知っておく必要があります。」


 青山社長は厳しい口調で言った。広崎部長はすぐに席を立って会議室を出て行った。


(やはり自社の者が関与していた・・・これは明日、謝罪会見だな・・・)


 青山社長はそう思うと気持ちがかなり重くなっていた。

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