元アイドルの決意

あまたろう

本編

 私がアイドルを辞めてから10年が経過した。


 「アイドル」という職業に関して言えば、「卒業」という言葉は好きではない。アイドルはいつだって現役で続けている人間が立派であり、辞めてしまった人間はアイドルとしては失格であると思っている。


 もちろん「元アイドル」という肩書を使ってお仕事をいただくことに関しては否定しないし、それは当然の権利だと思う。

 たがそれは同時に何か不祥事、とまではいかなくとも何か問題が起こったときには自分のみならずもともと所属していた事務所や、グループアイドルであればその名にまで傷がついてしまう。それだけは避けなければならないとも思う。

 だから……というわけではなく、なんとなく信念のようなものであるが、私はもともと所属していたアイドルグループの名前を自分から使う気はなく、使ってもいいかどうか訊かれれば使わないでくださいと答える。

 ただ自分は使わなくても、世間の目はどうしてもその肩書がチラつく。また使っていいか訊かれずに使われてしまうケースはもちろんあると思っているし、これに関しては止める権利は私にはなく、止めることもできないと思う。

 そして私はこの芸能生活の後半でそんな元の肩書が話題にならなくなるような活動をしたいという目標を持つとともに、そうならないとやっている意味がないとも思っている。


 戦う相手はアイドルとして活動していた時の自分自身だ。そして、元メンバーたちが今も現役で続けているそのアイドルグループだ。

 ……といっても、その所属していたグループを敵視しているわけではない。あくまで、私がそのグループの元メンバーであることを話題に出されないぐらいの活躍をしたいという目標のために意識しなければならない相手だというだけである。


 これを実現するために大事にしたいのは、私がソロになってから新たについてくれたファンの皆さんだ。

 もちろん、辞めた私についてきてくれたファンの皆さんには頭が上がらないし、前提として大事にしなければならないというのはある。

 しかし、新規のファンは私の前の肩書に関係なくついてくれた可能性が高いのは間違いないので、昔からのファンの皆さんに離れられることなく新規のファンを増やしていきたいと思う。そしてそれは邪道ではない、私がアイドルを辞めてまで進もうと決めた、私自身が信じる方法で実現しなければこれも意味がないと思っている。

 私が目指しているのは、アーティストでありシンガーソングライターだ。


 そんな私の今の夢は、いつの日か元所属グループと肩を並べるぐらいのソロアーティストになって、私が作った作品を何のわだかまりもなく歌ってもらうこと。

 また、その曲を引っ提げて元メンバーと共演することだ。この気持ちには嘘偽りはない。


 私の戦いはまだまだこれからだ。


(おわり)

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