006. 王城

 いくつかの小さな川にかかる橋を越えて街を登っていくと、立派な黒い金属製の柵が立ちはだかる。柵の上部は尖がっていて返しまで付いており、厳重に守ってますと主張していた。柵の向こうはこれまでの街並みと明らかに違って1軒1軒の敷地が広い。ポツポツと豪華なお屋敷が建っていることから貴族街なのだろう。


 その柵に付けられた立派な門に、私が無断乗車している馬車の一行が近付いていく。すると、門の脇にいた2人の兵士のような男が、ちょうど私たちがノンストップで通り抜けられるようにタイミングを計って門を開け始めた。


 門の上には白い虹のようなアーチ状の装飾がされている。これはあれだろう、空の白虹をかたどったものだ。そりゃあれだけバカでかい虹がずっと空にあれば、文化や宗教に多少は影響してくるよね。



 貴族街は豪華なお屋敷が建っているのが遠目に分かっても、それぞれに庭があるため詳細までは分からなかった。なんだか木々でわざと外から見え辛くしている節もあり、意図的なのかも。これまで軽い登山かなと思うほどの傾斜を登ってきたけど、貴族街は割と平坦だった。


 そんな貴族街をカッポカッポと通り抜けると唐突に森が始まり、あたりはファンシーな雰囲気に包まれる。そこここから妖精でも出てきそうな雰囲気だ。あ、妖精は私か。森は貴族街と違い、また緩やかな登り斜面になっていた。


 森を抜けると堀があり、跳ね橋の先にはようやく待望のお城が見えてくる。



 この一行はお城に向かっていたんだね、薄々気付いてたよ。そうなるともしかして、馬車の中の銀髪ちゃんは貴族じゃなくて王族なのかな。幼そうな見た目に反して大人っぽい雰囲気だったもんね、王女様かー。


 跳ね橋の先は立派な城壁と城門がある。城門の上部も白虹を模したと思われるアーチ構造になっていた。そんなアーチ状の門をくぐるとお城本体までの間にまた草地が続いていた。防衛目的なのか草地に通されている石畳の道は、これまで以上に傾斜がきつい。




 私はここまで乗せてきてもらった馬車をようやく離れることにした。

このまま付いていくと終点まで行ってしまって見つかっちゃいそうだしね。


 城門内には大小いくつかの建物が建っているけど、とりあえずあの1番大きな いかにもお城ですといった建物に向かってみよう。青い屋根の尖がった塔がいくつも付いていて「私がお城です」と主張している。あれがお城じゃなかったら何がお城なのか分からないほどお城だった。



 近づいてみると、屋根の端や段差構造の要所要所にクチを開けたドラゴンの顔の出っ張りがあり、壁の一部にも何やら物語性のありそうなレリーフが施されていた。高く飛んで上から見て見ると、お城はコの字型構造で中央に何もない広場があり、コの字の奥の中央が正面入り口のように見える。先ほど別れた馬車がそちらへ向かっていた。その裏手は庭園になっているようだ。



 うーん、どうしようかな。

こんなに素晴らしいお城があるのだから観光しない選択肢はない。幸い私は食事も必要ないし、馬車旅でも野外で問題なく寝起きできたことから生活の不安はなさそうだ。


 しかし街に入ったときにはまだ茜く照っていた太陽はすでにほとんど隠れ、あたりは薄暗くなっていた。この世界はどうやら照明が十分ではないようなので、夜になるとおそらく真っ暗になってしまうだろう。現に建物の影になっている場所は、すでに真っ暗だった。


 私に備わっている能力が真っ暗でも光を灯せると主張してくるのだけど、そこまでして観光したいとも思わない。それに、光を灯して真っ暗なお城をあちこち飛びまわっていたらホラーだ。翌日にはお城に幽霊が出ると問題になってしまうかもしれない。ただの怪談話になればまだ良い方で、魔物のいるこの世界では光る魔物と認識されてしまうかもしれない。討伐隊でも組まれたら洒落にならないよ。


 どこかで夜を明かそう。明日、明るくなってから観光すれば良いのだ。幸い生活に不安のない私は飽きるまでいつまでも観光し放題でしょ。お金は持ってないけど、お金のかからない観光ならやりたい放題なのだ。


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