第7話 緊急事態③

 「今更テメェに何が出来るってんだよ!!」


 冒険者たちから浴びせらる批難の視線と言葉。

 そりゃそうか、彼らには俺が戦いから逃げた臆病者だと映っているんだものな。

 唯一理性的な態度を貫いているのは月華一閃の面々くらいか……。

 

 「全員今すぐ逃げろ!!ここは俺たちが時間を稼ぐ!!」


 ダスターは口早に指示を出し、冒険者たちを纏めようと試みる。


 「ヘレナちゃんは!?」

 「そうよ、ヘレナは私たちを守ろうと必死に戦ってくれたのよ!!置いてくなんて出来ない!!」


 ヘレナの友達なのか数人の冒険者たちが声を上げると、ダスターは首を横に振った。

 

 「今は自分の命を優先しろ!!彼女は死んだんだ!!」


 金等級冒険者の一言、こういう非常時に関して言えば正しい一言にしかし俺は苛立ちを覚えた。


 「おいおい、人の妹を死人扱いたぁ、ちと酷くねぇか?」


 怒りはそのまま破壊衝動へと直結する。

 それが闇の力の本質であり、半分とはいえ魔族の血が流れる俺の運命だった。


 「お前、その力……!!もしかして!?」


 ブルーノは俺を見つめたまま、それ以上の言葉を失った。


 「お前らを助けようとしたヘレナと同じ力だ。闇を毛嫌いするお前らは闇の力に救われるんだぜ?滑稽だよなぁ?そして馬鹿馬鹿しくもある」


 身体から立ち上る魔力は漆黒。 

 破壊衝動に支配されたその力の矛先を大蛞蝓スラッグに向ける。


 「何が光だ、何が闇だ……そもそも光があるから闇がある。それらは表裏一体のはずだろ?善悪を勝手に決めるなんておかしくないか?」


 纏った魔力は何もかもを塗り潰す漆黒くろ

 異変に気付いた大蛞蝓スラッグが、粘液による攻撃を繰り出してくる。

 だがその勢いに触手程の脅威はない。

 ダメージを受けた触手は再生中で機能しないらしく代わりの粘液ということらしい。

 そんなものは十分に回避可能、その辺の冒険者でも出来ることだろう。


 「準備は整った――――【奪命タナトス】」


 この魔法は狙って放つようなものではなく、端的に言うならば毒に近い。

  練り上げられた俺の魔力が待機中の魔素に干渉して、大蛞蝓スラッグの周囲に漆黒のヴェールを下ろす。

 大蛞蝓スラッグもまた俺たち同様に生き物であり、呼吸と同時にその体に備わった魔力機関が魔素を吸収する。

 呼吸を止めても死、呼吸をしても死。

 相手を確実に殺すことに特化したオリジナルの魔法は、ヘレナによって体力を奪われた大蛞蝓スラッグには効果覿面だった。

 見てて気持ちのいいものでは無いが、暴れられるよりはマシだろう?

 

 「Gyaaaaaaaaaaaaa!!」


 耳を劈く程の大蛞蝓スラッグの絶叫が辺りに響き、大きく見開かれた単眼からは血を吹き出した。


 「血には触れるなよ?」


 粘液で草木を枯らすのなら、血液もまた毒性を持っているかもしれない。


 「このまま、搾り上げる」


 血液に留まらず粘液を表皮から吹き出し大蛞蝓スラッグは、絶叫を上げながらもがき続けた。


 「以外にしぶといな……」


 注ぎ込む魔力を増大させ畳み掛けること数分。

 大蛞蝓スラッグは体中の水分を全て失い、動くことを止めた。


 「俺は妹を連れて帰る。後はお前らで勝手にやってくれ」


 取り返しのつかないことになったのは、もはや明白。

 ヘレナの幼さ、一時の感情に流された自分。

 その両方で俺たちは今の生活を失うことになるだろう。

 ヴォルガルはきっと俺たちを許さないし、今回のことが原因できっと多くの人々にも目をつけられることになるだろう。

 それでも俺はヘレナの選択を尊重したいし、まだ一緒に生き続けたいと思った。

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